第25号 −令和元年7月1日発行−
■発行人:鍵本 伸二  ■編集人:井原 裕  ■題字:福井 厳

第33回 糖尿病医会学術講演会

平成30年6月30日
京都府医師会館

「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」

  • 総合司会
    原山内科クリニック
    原山 拓也 先生

  • 司会
    和田内科医院
    和田 成雄 先生

  • 司会
    八田内科医院
    八田 告 先生

  • 司会
    京都府立医科大学
    千丸 貴史 先生

パネルディスカッション
「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの実際」
「京都府糖尿病性重症化予防のとりくみ」

京都府健康対策課 健康長寿・未病改善担当 担当課長
竹原 智美 氏

本日は、1)京都府における糖尿病の実態、2)糖尿病重症化予防対策の国及び京都府の動向、3)課題と対応について報告する。

1)京都府における糖尿病の実態

京都府の腎不全の年齢調整死亡比は、男女とも全国より高く、人工透析患者は京都府においても年々増加しH28では6,392人。また、新規人工透析導入患者617人の内、糖尿病性腎症は275人(44.6%)あり、重症化を予防出来た可能性が高い対象であった。特定健診受診者の質問票で「血糖を下げる薬を使用している」と回答した方のHbA1cをみると、血糖高値の方がかなり見受けられ、このことは、糖尿病治療では服薬に加え食事や運動などの生活コントロールの重要性が示唆された。市町村国保加入者の糖尿病受診率をみると、市町村格差が大きく格差是正も京都府の課題である。以上のことから、糖尿病重症化予防対策は京都府の健康課題として重要である。

2)糖尿病重症化予防対策の国及び京都府の動向

国の動向として、H28に日本医師会・日本糖尿病対策推進会議・厚生労働省の3者連名で「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が策定され、京都府においても京都府糖尿病対策推進事業委員会内にプログラム検討小委員会が置かれ、行政も参画し検討を行った。翌H29に府が糖尿病重症化予防対策事業を予算化し、小委員会は京都府糖尿病対策戦略会議に引き継がれ、H29年10月に京都府版糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定した。

3)糖尿病重症化予防対策における課題と対応

対策を行うにあたり①医療に関する課題として、「医療保険者が治療中の方に介入する共通のルールがなく困難」「地域での病診連携体制も確立していない」「専門医が地域には不在等、医療・保健の社会資源に地域格差がある」、②保健指導に関する課題として、「保健指導従事者が不足・力量に不安がある」「市町村の規模が異なるため一律の取組は困難」が明らかになった。

そこで、「どの地域においても適切な保健指導が安定的に受けられる実施体制の構築」を目指し、府域全体の体制を構築するための「糖尿病重症化予防戦略会議」、また地域の医療・保健の社会資源に応じた体制整備するための「地域戦略会議」を保健所ごとに設置している。地域戦略会議の立ち上げにおいては、府医師会の理事に足を運んでもらい医師会としての説明がなされ、府域全体で糖尿病対策を進めることの合意形成が図られた。 またこの戦略会議では、事業をすすめるための対象者の選定基準や連携方法・連携基準を具体化した「京都府版糖尿病腎症重症化予防プログラム」の策定や、人材育成・人材確保について協議を行ってきた。

プログラムの基本的な考え方は、「健診で血糖が異常値であるのに未受診の者や、糖尿病治療中断者を医療に結びつけると共に、糖尿病で通院する患者のうち腎症発症の可能性が高いハイリスク者に対して、医療保険者が医療機関と連携して栄養・保健指導を行い、人工透析への移行を防止することである。

市町村国保の対象者を推計したところ、健診受診者134,900人のうち、①医療機関未受診者4,500人、②糖尿病治療中断者1,380人、③ハイリスク者2,000人であった。但しこれらの数値は、特定健診を受診された方に限定した推計人数であり、健診受診率が34.1%という現状から、残りの約65%の実態は把握出来ていない。健診受診率が低いことは府の課題であり(府全体の特定健診受診率46.1%(全国34位))、健診未受診者対策もあわせて行う必要がある。

プログラムの特徴は、府医師会・糖尿病対策推進事業委員会・京都府の3者連名で策定したこと、新たな知見を加え随時改定を行うこと、対象者の選定基準は一律ではなく保険者が柔軟に決められることである。この5月に改訂したプログラムの内容の一つに、地域における医療機関間の紹介・連携基準を加えている。紹介基準は学会の治療ガイドに基づき、かかりつけ医から専門医の紹介のみでなく・糖尿病専門医と腎臓専門医の紹介基準、また歯科医・眼科医への受診についても記載しており、より連携を確実なものにしていくことが課題である。

次に人材育成と確保については、H29年度に医師会及び栄養士会にお願いし、保健指導の人材育成を実施し64名が登録された。今年度は事例検討も加えスキルアップ研修を行うが、特に北部地域の人材を確保するため北部会場でも実施予定である。

各地域では地域の課題を踏まえ様々な取組が始まっている。乙訓地域では乙訓医師会の協力を得て栄養のリーフレットを作成し、かかりつけ医が血糖値の高めの方の食習慣の指導に活用。福知山地域では管内の透析施設の協力を得て、糖尿病を有する人工透析の方に聞き取り調査を実施し、支援方法に役立てる等の取組が予定されている。

今後の課題は、すべての市町村において実施体制が整うよう支援するとともに、市町村国保以外の医療保険者でも取り組みが進むよう、かかりつけ医をはじめ関係者との連携を強化すると共に、府民の方自信が糖尿病重症化予防の必要性を理解されるよう啓発も併せて実施し、京都での取組を充実させることである。

「滋賀県米原市における取組み」

米原市健康福祉部健康づくり課
伊賀並 愛 氏

米原市の現状(当時)から、法定の保健指導だけでは不十分ということで、糖尿病対策、慢性腎臓病(CKD)対策をそれぞれ開始。介入方法は、個別保健指導、主に家庭訪問。CKD全般の対策ということで始まり、その中で、透析患者への家庭訪問を実施し医療との連携を進めてきた。

【透析患者への家庭訪問】

重症化の現状について把握するため、市内の透析患者全員の状況把握を行った。原因疾患等の把握の他、どのような経過で透析に至ったのか、どこでどのような介入が必要だったのかという視点で行った。

透析導入者には、健診も医療も全く受けていないという人(未受診、未治療者)も一定数はいたが、多かったのは「ずっと元気だったのにいきなり透析になった」「薬はきちんと飲んでいたから大丈夫だと思っていた」という声で、認識の薄いまま、悪化して透析に至るというケース。「病気のことをもっと知っていたら気をつけていたのに。」という声が印象的であった。透析導入者への家庭訪問は、その方達に直接支援ができるわけではないが、個別指導の対象者の選定や考え方の基礎となった。

【家庭訪問、医師との面談を経て、医療機関連携へ】

家庭訪問で、いろんな声を聞いた。検査値の意味をしっかりとはわかっていなかったという方や、薬さえ飲んでいたら大丈夫でしょうという方、いろいろおられるが、治す気がないのではなく、本当の意味でまだ納得・理解をしていない、行動に至っていないだけで、悪くなりたいという方はおられない。生活習慣や理解の仕方は一人一人本当に違うので、そこに継続して関わることが必要と感じた。医師からはしっかりと指導を受けているため、言われたことを本当の意味で理解し、生活で実践できるまでに持っていくことが必要であり、医師からの指示や助言をいただきたいと感じた。

個別ケースの面談等で医師と話していると、医療機関でも対応に苦慮されている現状があった。また、専門医も、連携に対して課題を感じておられることがわかった。これらのことから、様式による連携と、講演会開催に至った。このやり方で2年ほど経過したが、さらに連携を密にするために、地域で実際に関わっている事例の検討を行うことにし、現在も続いている。回を重ねるたびにテーマは変わっていき、最終的に残る課題はやはり糖尿病の重症化した事例。合併症を起こさないために良好なコントロールを続けていくことや、さらに進んでしまった状態でも重症化予防は可能。医療と地域が連携して支援していく上で、経年的なデータや生活背景を共有することと、経過の長い疾患なので、腰を据えて関わることが重要であり、地域の保健師・管理栄養士の役割であると感じている。

「向日市糖尿病性腎症重症化予防のとりくみ」

向日市健康福祉部健康推進課 課長
柴田 晶子 氏

向日市が糖尿病性腎症重症化予防を取り組むにいたった経緯は、①特定健康診査からみえる健康実態、②レセプトからみえる健康実態、③人工透析を受けている方の実態をみる中で、やらざるをえない状況になったということである。

①特定健康診査からみえる健康実態は、メタボリックシンドローム予備群、該当者の割合が高いのが特徴である。(平成28年度受診率47.3%、保健指導率63.9%)②レセプトからみえる健康実態は、生活習慣病医療費に占める慢性腎臓病(透析あり)の割合が12.3%であり、京都府9.7%、全国9.7%、同じ人口規模の市の平均9.5%と比べてかなり高い状況にある。③人工透析を受けている方の実態は、平成28年度人工透析者51人であり、その内、新規導入者が9人であった。糖尿病性腎症は24人で47.1%であった。人工透析となった方から、健診は受けていたが健診結果を重要視していなかった、もう少し早く気づいていたらと後悔の言葉を聞くこともあった。

そのような中、防げる人工透析はなかったのか、このまま何もせず見ているわけにはいかないという思いになり、平成28年度から糖尿病性腎症重症化予防事業を開始することとした。

対象者は、①未治療者、治療中断者と②ハイリスク者である。具体的には、①は、過去5年間の特定健診の結果でHbA1c6.5%以上になったことのある人で現在、未治療者、治療中断者。その中でも平成28年度特定健診未受診の205人とした。②は、特定健診結果でHbA1c6.5%以上かつeGFR45~59の79人。治療中の人は書面による主治医の許可が得られた人のみとしたので65人となった。

79人の対象者の内65人は糖尿病以外のリスクも持っており、中でも45人がメタボリックシンドローム該当者であった。

対象者は、担当地区別に台帳を作成し5年分の健診結果とレセプトから得られた治療状況、服薬状況を一覧にして管理し、その後、得られた情報も追記している。

実施方法は、保健師、管理栄養士が家庭訪問で栄養指導を行うものである。事前に電話で約束をすると断られることが多いため、アポなしで訪問することとした。会えない場合、3回は再訪問をした。「腎臓の話は聞いたことがなかった」と積極的に話を聞いてくれる人、最初は嫌がっていても「家にまで来てくれたから」と聞いてくれる人、ずっと迷惑そうな人、さまざまであった。最初は迷惑そうであっても、何回か訪問する中で、少し話を聞いてみようと気が変わった人もいた。

平成29年度は①未治療者・治療中断者189人を訪問したが、受診勧奨ができたのは75人であった。このうち45人が現在受診している。現在未治療の30人の内、糖尿病の治療はしていないが、高脂血、血圧等で受診している人が9人、治療はしていないがその後に市の特定健診を受けた人が15人、未治療かつ健診未受診が6人であった。

②のハイリスク者は、継続して栄養指導ができた人は25人であった。家庭訪問すると保健センターではみることのない「ありのまま」の生活が見え、経済状況も想像できる。冷蔵庫の中や普段使っているお茶碗まで見せてくれる方もいれば、長年の食習慣を変えてもらう難しさを痛感する方もいる。

栄養指導の効果をみるため、平成28年度に栄養指導を行った人の平成28年度と平成29年度の健診結果を比較してみた。平成28年度は、46人に栄養指導を実施し、19人は指導拒否または会うことができなかった。栄養指導した46人中、平成29年度も特定健診を受けた人は39人であり、この人たちの平成28年度と平成29年度の健診結果を比較してみた。

HbA1cでみると指導した群では56.4%が改善、10.3%が変化なし、悪化33.3%であった。指導しなかった群では33.3%が改善、13.3%が変化なし、53.3%が悪化していた。eGFRでは、指導した群では56.4%で改善、7.7%が変化なし、35.9%が悪化していた。指導しなかった群では、53.8%で改善、46.2%が悪化していた。

以上のことから栄養指導した群の方がしなかった群より改善傾向がみられた。しかし、新規人工透析者が減るにはまだ至っていない。

新規人工透析者を減らすには、対象者の意識が変わるような栄養指導の質の向上が欠かせない。家庭訪問で見えた生活の様子は、想像と異なることも多く、生活背景にあわせた栄養指導を行う必要があると感じる。

また、医療機関との連携も重要となってくる。連携は、糖尿病連携手帳に使って行い、年度末に主治医に報告するようにしたが、今後は、訪問の中で気付いたこと、疑問点など、その都度、主治医に報告、相談し、事例検討等も行いながら積極的に連携を図っていきたい。

「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの実際」

社会福祉法人京都社会事業財団京都桂病院栄養科 主任
筒井 未季 先生

糖尿病腎症重症化予防プログラムを実施するにあたって地域の管理栄養士として、A:栄養指導の質向上、B:地域との連携強化が必要であると考えている。

Aに関しては、すでに医師会・糖尿病対策推進会議が企画・開催している医療従事者研修を受けることができる。Bについては、保険者(行政)とかかりつけ医、専門医との連携において、所属する管理栄養士間の連携強化が必要であると考える。

またこれらに所属する管理栄養士だけでなく、訪問栄養指導を行っている管理栄養士や老健などの入所施設の管理栄養士、現在仕事をしていないが資格を有する管理栄養士など、地域に存在する管理栄養士が連携し、地域における「栄養」を多方面からサポートできる仕組みが必要になってくるのではないかと考えている。

そこで当院栄養科で取り組んでいる、①専門医の下での栄養指導、②地域における「栄養」を多方面からサポートする活動を紹介する。

①専門医の下での栄養指導

1)外来連携栄養指導パス

多くの医院や診療所などでは管理栄養士は雇用しておらず栄養指導を行えない。そこで「栄養指導のみ桂病院でできないか?」という声に応えて2009年8月より地域連携糖尿病外来栄養指導を開始した。申し込み方法は当院ホームページより「糖尿病・内分泌内科連携栄養指導予約申し込み用診療情報提供書」をダウンロードし当院地域医療福祉連携室へFAXする。それを受けた連携室担当者が、診察室と栄養指導室へ連絡調整を行い受診日が決定し、連携医へ連絡する。この間およそ15分である。初回の来院時は、まず糖尿病専門医が診察を行い、栄養指導に必要な情報を管理栄養士へ連絡する。この連携栄養指導は日本糖尿病療養指導士の管理栄養士が行っている。2回目以降は1~3ヶ月に1回の栄養指導を継続し、約半年に1回は医師の診察をおこなっている。連携栄養指導の初回と終了時、半年に一回の受診時と、必要に応じて連携医に栄養士から報告を送っている。開始から9年経過時点では、利用した連携医院は18施設、糖尿病患者は27名であった。今後も継続して指導を行い、地域の栄養指導に貢献していく。

2)糖尿病腎症重症化予防指導

平成24年に診療報酬が新設されたことを受けて平成25年から非算定で、平成26年1月から算定で開始した。年々指導患者数は増え、平成29年度は53名の患者さんに延べ282回指導を行った。

指導は基本3回シリーズで、医師の診察前に看護師と管理栄養士が指導を行い、2回目と3回目は薬剤師による薬剤指導も行っている。管理栄養士は食塩の適正量摂取「適塩指導」に重きをおいて指導している。

平成27年4月から平成29年1月に指導を開始し、3回以上指導を受けた患者で、初回と半年後のデータを比較したところ(計36名(男22/女14)、年齢67.4±9.8歳)、血圧は半年後に収縮期拡張期ともに有意な低下がみられ (p<0.01)、尿中Albの指導前後の変化量と推定塩分摂取量の変化量に正の相関が認められた(p<0.01)。今後も引き続き指導を行い、効果的な介入方法について検討していく(2018年1月病態栄養学会にて発表)。

3)市民公開講座

地域市民への啓発活動の一環として、2018年6月17日に「腎臓病・糖尿病の食事・治療~QOLの向上を目指して~」というテーマで、イオンモール京都桂川にて公開講座を行った。糖尿病と腎臓病について各専門医が、またその発症・進行予防の食事について管理栄養士が、そして健診を受ける重要性について向日市の保健師が講演を行い、質疑応答の時間も設けた。今後も地域の皆様に、発症・進行予防の食習慣と健診・受診の重要性について、管理栄養士としてお伝えしていく。

②地域における「栄養」を多方面からサポートするために

1)all西京栄養を考える会

地域栄養士間の連携として、地域における「栄養」を多方面からサポートすることを目的に

all西京栄養を考える会を発足し活動している。発起人は病院管理栄養士として当院栄養科科長の川手、病院側顧問としてJSPEN指導医で当院乳腺外科部長松谷泰男先生、地域側顧問としてよしき往診クリニック院長の守上佳樹先生である。第1回の会合を2018年3月に行い西京区内の入院入所施設17施設のうち、15施設の栄養部門責任者が集まった。まず着手しているのが、各施設が独自的になりやすい嚥下食について“日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013”をあてはめ言語の統一化と、各施設で取り扱っている流動食をふくむ特殊食品一覧表を作成し情報を共有することである。今後は2018年診療報酬改定の際に提示された「栄養情報提供書」についても取り組んでいく予定である。

以上のような活動を通して、地域の管理栄養士として、栄養指導の質向上・地域での連携強化をすすめ、地域の皆様に発症・進行予防の食習慣と健診・受診の重要性についてお伝えし、本当の意味での地域における「栄養」を多方面からサポートする必要があると考えている。

「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの実際」

社会福祉法人京都社会事業財団西陣病院 薬剤部 部長
三宅 健文 先生

糖尿病重症化予防対策は、糖尿病と慢性腎臓病という2つの疾患が存在する。患者背景は、健診により糖尿病や慢性腎臓病を指摘されていても受診しない健康無関心層であったり、受診し薬物治療を始めたとしても様々な要因により治療を中断したりする場合である。また、腎機能が低下している場合に、患者の腎機能を適正に評価できなかったり、把握することができなかったりすると、腎排泄型薬剤の過量投与による副作用発現や薬剤性腎障害を起こす可能性のある薬剤が処方され、さらに腎機能が悪化することが考えられる。薬剤師が担える糖尿病重症化予防対策は、健康無関心層や治療を中断した患者への受診勧奨や薬物治療を行なっている患者のアドヒアランスやコンプライアンスの向上、腎排泄型薬剤の適正使用や薬剤性腎障害の予防である。健康上の問題を抱える住民のうち、約30%の人が開業医や病院などの医療機関を受診すると言われている1)。医療機関を受診しない人は、医療機関を利用しないか、もしくは薬局におけるセルフメディケーションを行なっており、医療機関を受診する前段階で多くの住民が気軽に健康相談ができる場所を期待しているかもしれない。その場所が「街の健康ステーション(かかりつけ薬局)」であると考える。

本シンポジウムでは、厚生労働省が自治体向けに行なった「糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けてー事例集2)」のうち、長野県(松本市)の「医師・薬剤師が連携して保健指導を実施した事例」を紹介した。松本市では、地元薬剤師会に「糖尿病性腎症重症化予防プログラム事業」を相談した際、薬局が「街の健康ステーション」になれる良い機会であるという薬剤師会の考えもあり実現した。取り組みのプロセス(図1)により、「かかりつけ薬局」の薬剤師が、服薬指導に加え、食事・運動などの生活習慣や自己管理を6ヶ月間支援するものである。管理栄養士は、対象者が撮影した食事の写真等から栄養評価を行い、薬剤師がその内容を対象者へ助言している。薬剤師のコーチング支援の品質を担保するため、対象者との面談(コーチングレポート)を作成し、糖尿病療養指導士がレビューし、必要に応じて薬剤師に助言している。ここに、医師と薬剤師、管理栄養士の多職種連携が生まれており、薬剤師、管理栄養士に関しては、「糖尿病療養指導士」が活躍している。京都における糖尿病療養指導士(CDEJ)は116名いるが、薬局に勤務する者は5名と少ない。しかし、2013年より京都府糖尿病療養指導士認定委員会が設立され「京都糖尿病療養指導士(CDEL)」の認定制度が始まった。2017年度現在、薬局に勤務する京都糖尿病療養指導士(CDEL)は130名であり、糖尿病性腎症重症化予防プログラムにおける活躍が期待される。さらに日本腎臓学会では「腎臓病療養指導士制度(次年度以降は、日本腎臓病協会が運営する)」を発足させ、2018年1月に第1回の認定試験を行い、全国で734名(薬剤師は146名)が認定された。今後は、糖尿病療養指導士と腎臓病療養指導士による連携を推進し、糖尿病性腎症重症化予防プログラムにおける療養指導士の連携事例報告が増加することに期待がかかる。

糖尿病性腎症重症化予防において、薬剤師が考えることは、患者の腎機能に応じた適切な薬物治療を支援することであり、医師や薬剤師、他のスタッフが患者の腎機能評価の情報を共有するツールが必要となる。そこで、筆者が代表を務める京滋CKD研究会では、滋賀県や熊本市で行われている「CKDシール」の開発事業(図2)を始めた。CKDシールは、患者の腎機能評価を簡易的に知ることができるため、検査値を受け取れない薬局でも患者の処方に対して、腎機能を考慮した処方提案が可能となり、病診薬連携における患者の腎機能評価情報を共有することができる。「CKDシール(京都版)」の貼付基準は、①eGFR<60mL/分/1.73㎡ が、3ヶ月以上持続(CKDの定義)もしくは、②eGFR<45mL/分/1.73㎡ (中等度低下)であり、②を決めた基準は、糖尿病透析予防管理料の腎機能評価が、平成28年度診療報酬では「eGFRが30mL/分/1.73m²未満」であったが、平成30年度からは「eGFRが45mL/分/1.73m²未満」に変更されたためである。今後、CKDシールに関しては、協力薬局を中心に応需している処方せん発行医療機関と協力しながら進めていきたいと考えている。

糖尿病性腎症重症化予防プログラムでは、まずは対象者がこのプログラムに参加することが重要である。このプログラムに薬剤師が直接的に関わることは少ないが、地域におけるチーム医療の一員として、様々な場面で関わる必要があると考える。

本シンポジウムの内容は、私見であり、京都府薬剤師会が進めている事業や見解とは異なる場合がある。

図1 取組を具体化していくプロセス

○ 薬剤師への協力依頼
・ 松本市から地元薬剤師会へ協力を依頼
・ かかりつけ薬局機能強化の趣旨に沿う事業
○ 薬局薬剤師が保健指導を行うメリット
・ 対象者は、薬の受取りのため定期的に薬局を来訪するため、負担を感じずに保健指導を受け易い。
・ 対象者は、自分の都合の良い時間に、普段利用している薬局で保健指導を受けることが可能

図2 CKDシール京都版 開発プロジクト

引用文献

1)Fukui T, et al : The ecology of medical care in Japan. Ja- pan Medical Association Journal 48 : 163-167, 2005.

2)糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けてー事例集:国保・後期高齢者医療制度における糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に関する説明会,平成29年7月24日

教育講演1
「地域一丸で取り組む糖尿病重症化予防」

京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学講座
特定准教授 矢部 大介 先生

教育講演2
「腎機能障害を合併した糖尿病の特徴と注意点」

京都府立医科大学大学院医学研究科
循環器内科・腎臓内科学講座

学内講師 草場 哲郎 先生

【我が国における透析療法の動向】

CKDの概念の提唱に代表される腎疾患の予防、治療に関する啓発活動が行われているにもかかわらず、慢性腎不全による維持透析患者は増加している。新規透析導入患者数は今後減少傾向に転じることが予想されているものの、死亡透析患者数を上回っているため、結果として維持透析患者数は増加している。新規透析導入患者の年齢も高齢化しており、糖尿病性腎症、加齢や動脈硬化に伴う腎硬化症を原疾患とする患者は増加傾向である。

【糖尿病性腎臓病という新たな疾患概念】

また最近の糖尿病と腎臓病に関連する話題として、糖尿病性腎臓病(Diabetic kidney disease : DKD)という概念が提唱されたことが挙げられる。糖尿病に合併する腎臓病は長らく糖尿病性腎症と呼ばれてきた。典型的な糖尿病性腎症の経過として、微量アルブミン尿期を経たのち多量の蛋白尿を認める顕性腎症期となり、その後腎機能障害が出現するとその後の経過は早く(腎不全期)、最終的に透析に至ると考えられていた(透析療法期)(図1)。しかしながら、近年蛋白尿がそれほど多くないにもかかわらず腎機能障害が進展する症例、また腎炎などの他の腎疾患に糖尿病が合併する症例など、その疾患の多様性が叫ばれるようになり、それらを包括した概念として糖尿病性腎臓病が提唱された(図2)。この概念が提唱されたことで、より広い糖尿病を合併した腎機能障害患者に対して、血糖、血圧の管理を通じて、腎機能障害の進展予防だけでなく、高率に合併する心血管疾患の予防、早期発見、治療が行われることが期待されている。

【腎機能障害を有する患者の血糖管理の注意点】

腎機能障害を有する糖尿病患者に対する血糖管理を行う際には注意すべき点がいくつかある。

まず、腎機能障害患者では既存の指標では血糖値を正確に評価するのが困難であること挙げられる。HbA1cは腎性貧血の合併、腎不全に伴う赤血球寿命の短縮、エリスロポエチン製剤の使用により、実際の血糖値よりも過小評価されることが知られている(図3)。また腎不全患者では、低栄養の影響、ネフローゼ症候群を呈している場合などの理由により低アルブミン血症を認めることが多く、グリコアルブミンも血糖値を正確に反映するとは言い難い。

次に腎機能障害を有している患者では低血糖を来しやすいことが挙げられる(図4)。その理由として①腎臓でのクリアランスの低下にともなう内因性インスリンの体外排泄遅延、②経口血糖降下薬の排泄の低下に伴う薬効の増強、③腎臓における糖新生の低下、などが挙げられる(図5)。特に生体では肝臓と腎臓でしか糖新生を行える臓器はなく、腎不全患者ではその糖新生能が減弱することから、低血糖の原因となると考えられる。

これらのことから腎機能障害を有する患者に対する血糖管理は、より正確な血糖評価と低血糖の回避という問題を克服する必要がある。近年はより簡便に血糖値をモニタリングできる装置も相次いで臨床応用されており、これらの利用によりより厳密な血糖管理を行えることが期待されている。

【夏季における腎疾患診療の注意点】

糖尿病性腎症の進展予防にはレニンアンジオテンシン系(RAS)抑制薬を中心として用いることによる適切な降圧療法が重要である。しかしながらRAS抑制薬は体液量が減少した際には降圧効果を増強し、それに引き続きeGFRを著明に減少させることが示されている。したがって、夏季において発汗に伴い体液量が減少すると、RAS抑制薬の降圧効果が増強する。我々が夏季に脱水で救急受診した症例を検討したところ、RAS抑制薬の使用と血圧の低下が有意に腎機能の低下と相関していた。RAS抑制薬の使用下での脱水では、高度の腎機能障害、高カリウム血症、代謝性アシドーシスの頻度が高く、入院を要するような重症例も高頻度に認めた。陸上生物では重力に逆らい血圧を維持すること、細胞外液量の主たる規定因子であるNaを保持する機構が生存に必須であり、前者をレニンが、後者はアルドステロンが担っている(図6)。塩分が体内に十分存在する場合には問題がないが、夏季の脱水時にはRAS抑制薬の使用によりRASというセーフティーネットが取り払われると、より重篤な低血圧、腎機能障害が惹起されると考えられる。これらの予防には、正しい方法で家庭血圧を測定する習慣を患者につけてもらい(図7)、経口摂取不良、発汗などによる体液量喪失時に低血圧を生じた際には降圧薬の減量、中止することが重要である。


第34回 糖尿病医会学術講演会

平成30年12月1日
京都府医師会館

「糖尿病の移植療法の現状について」

  • 総合司会
    とよだ医院
    豊田 健太郎 先生

  • 司会
    愛生会山科病院
    神内 謙至 先生

  • 司会
    京都桂病院
    長嶋 一昭 先生

ワンポイントレクチャー
「先進糖尿病デバイスの最新情報」

独立行政法人 国立病院機構 京都医療センター 糖尿病センター
村田 敬 先生

1. 糖尿病デバイスの歴史

1970年代にインスリンポンプが実用化されてから今日に至るまで、糖尿病診療における先進デバイスの発展は、電子工学の医療への応用の歴史であった。

2. インスリンポンプ

現代のインスリンポンプは、内蔵された小型のコンピューターにより注入量を制御する仕組みになっており、個別の患者のインスリン需要に合わせて基礎注入量をプログラムすることができる。

3. 持続血糖測定器(CGM)

さらに2000年頃から、間質液のグルコース濃度を測定し、それをコンピューターでおおよその血糖値に換算して表示する持続血糖測定(continuous glucose monitoring: CGM)の技術が実用化され、それまで測定したタイミングの値しか知ることができなかった血糖値の変動を連続的に知ることができるようになった。CGMは皮下の間質液のブドウ糖濃度を測定しているため、本当の血糖値とは少し違う値が出る。機種にもよるが、実際の血糖値より5-15分程度、表示が遅れる。

4. CGMによるインスリンポンプの自動制御

最近ではCGMによるインスリンポンプの部分的な自動制御(現状ではおもに基礎注入に限定)も実用化されている。日本国内では「低グルコース前一時停止」(PLGM)機能を有するミニメド640Gが使用可能。

5. FreeStyle リブレ

かざしたときだけ、おおよその血糖値を表示。指先から採血する従来の血糖測定器の機能も有する。メーカー公称の誤差率(MARD)は11.4%。ただし指先から採血する従来の血糖測定器ほど精度が高くないことに注意する必要がある。リブレは血糖値100mg/dl未満で不正確な傾向があり、また、リブレは50mg/dl以上の誤差が見られることがある。FreeStyleリブレで低血糖の診断はできないことに注意する必要がある。血糖値の変化速度を示すトレンド矢印の活用が重要で、これは血糖変動の予測に役立つ。FreeStyleリブレの健康保険については、現状、従来の血糖自己測定と同じ健康保険点数(C150 血糖自己測定器加算)が設定されている。

6. 海外のCGM

日本国内では未発売だが、従来型の血糖自己測定器の代用として使用可能なCGMの機種や、酵素電極法の代わりにホウ素化合物を用いた長期埋め込み型光学式CGMもある。

教育講演1
「膵島移植について」

京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学
院内講師 藤倉 純二 先生

糖尿病に対する移植治療には、膵臓移植と膵島移植とがあります。

本邦における現時点での移植適応は、どちらもインスリン分泌の完全な枯渇とされています。

膵臓移植では、殆どの場合、インスリン離脱が見込めますが、膵島移植ではインスリン離脱は困難で、血糖値の安定化と血糖コントロール(HbA1c等)の改善、他人の助けを必要とする所謂重症低血糖頻度の減少が期待されます。

膵臓移植は保険診療となっていますが、膵島移植は先進医療として臨床試験が継続中です。

膵臓移植は開腹手術という大きな侵襲を伴うHigh Risk High Returnの治療で、膵島移植はLow Risk Low Returnの治療と言えます。

膵島移植は、2000年にエドモントンプロトコールというステロイド不使用の免疫抑制療法と複数回大量の膵島移植による良好な結果が報告されてから注目を集めました。長期的な観察ではインスリン離脱を維持することは難しいことが判明しましたが、血糖値の安定化と重症低血糖頻度の低下が認められ、膵島移植の効果が明確となってきました。その後、ミネソタプロトコールという抗胸腺細胞免疫グロブリン製剤などを使用したプロトコールによる良好な成績が多施設研究でも示され、2016年には膵島移植の第三相試験結果がDiabetes Care誌に報告され移植後1年でのHbA1c7.0%未満、重症低血糖消失という主要評価項目の達成率は87.5%と良好な成績が示されました。

国内では、2004年から心停止や生体ドナーからの膵島移植が18症例に対して計34回行われ、一定の成果を収めました。しかし、2006年には膵臓移植が保険適応となった一方で、膵島移植は膵島分離酵素に狂牛病感染のリスクが有ることが判明し2007年に休止となりました。2013年から膵島移植が再開され高度先進医療として臨床試験が進行中です。

現在、膵島移植は、2段階の適応審査を経て行われています。まず、膵・膵島移植研究会の適応審査があります。適応ありと判定され、先進医療に参加される場合にはより細かい適応・除外基準が設けられています。

上図は、当院で施行された腎移植後膵島移植の患者さんのグルコースモニタリング結果です。移植前グルコース値は平均180 mg/dL, 標準偏差43 mg/dLでしたが、初回移植後1週では平均105 mg/dL, 標準偏差22 mg/dL, 初回移植後1年5ヵ月(2回目移植後3ヵ月)にはインスリン不使用にても、平均121 mg/dL, 標準偏差19 mg/dLと良好な血糖変動を示し、初回移植後3年以上経過した在宅にてもペン型のインスリンを使用しながら平均114 mg/dLと落ち着いた糖尿病コントロールとなっています。

今後、血糖コントロール困難な糖尿病患者さんに対して、膵島移植が現実的な治療として選択肢に上がることが期待されます。

教育講演2

司会 京都府立医科大学
濱口 真英 先生

「膵臓移植の現状」

京都府立医科大学大学院 移植・再生外科学 准教授
牛込 秀隆 先生


糖尿病医会事務局だより

京都糖尿病医会会長
鍵本 伸二

<HbA1cを疑うとき>

会員の先生方におかれましては、平素より京都糖尿病医会の運営にご協力いただき感謝申し上げます。さて、糖尿病性腎症重症化予防の取り組みが本格化し、市町村国保から治療中断者への働きかけや重症化ハイリスク患者への保健指導などが各地で始まりつつあります。糖尿病医会も糖尿病対策推進事業や重症化予防戦略会議などを通して重症化予防の取り組みに協力しておりますが、今後は地域医療現場での会員の先生方のご活躍が益々重要となってくるものと思われますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

腎症をはじめとする糖尿病合併症の発症進展を抑止するために、熊本宣言ではHbA1c<\7%が提唱されました。HbA1cが血糖の平均値を反映する指標であることは今さら説明の必要はありませんが、貧血があるとその値が低めに出るなど、実際の血糖値とHbA1cが乖離する場合もあるため注意が必要です。また臨床現場では貧血以外にも、HbA1cの値を信用してよいのか疑問を感じるケースに時々遭遇します。そのようなケースをいくつか経験しましたので、ご紹介します。

1)ヘモグロビン遺伝子変異の症例

私が開業以前から継続して診ていた60代男性です。開業前は臨床検査会社に依頼してHbA1cを測定し、開業後当初は簡易な免疫法の測定器を使って院内で検査していました。HbA1cは概ね7%台でしたが、6%台~8%位の間で時々不自然かつ急激な変動を認めました。免疫法の測定器はメーカーの宣伝文句ほどの精度がなく、測定結果にかなりのばらつきがあるのが実感で、この方のHbA1cの変動もそのせいだろうと思っていました。

院内の検査器を免疫法からHPLC法に入れ替えたとき、血糖値は大きく変わっていないのに、HbA1cが前月8.0%(免疫法)から当月6.1%(HPLC法)と、明らかに異常な変動を認めました。ちなみに検査会社の酵素法の測定では前月7.5%、当月7.4%と変動はありませんでした。

同じ検体を臨床検査会社でもHPLCで測ってもらったところ5.7%で、測定方法によって値が全く違う事が確認されました。ちなみにグリコアルブミンは25.0%で、SMBGからの実感にはこれが一番近く、酵素法の7.4%も低く出すぎている印象だったため、それ以降はグリコアルブミンを指標に治療を行いました。

ヘモグロビン異常症を疑い、患者さんの同意を得たうえでアークレイに解析を依頼し、高分解能HPLCでヘモグロビン異常症が強く疑われたため、検体を大阪医大臨床検査部に送ったところ、Hb TORANOMONというヘモグロビン遺伝子変異が同定されました。

2)多血症の症例

健診で糖尿病を指摘されて来院した50代男性です。テネリグリプチンとグリメピリドで治療を行い、3ヶ月でHbA1c 10.5%→7.4%と順調に改善しました。

しかしHbが治療開始時14.5 g/dL→4ヶ月後19.6 g/dLと何故か上昇してきました。数年前に禁煙しており、念のため簡易PSGも施行しましたが有意な睡眠時無呼吸症候群も認められませんでした。DPP4阻害薬で多血症になるという話も聞いたことはありませんが、念のため休薬しても改善しませんでした。

真性多血症を疑って血液内科受診を勧めましたが、行ってもらえないため仕方なく当院で経過観察を続けていたところ、Hbが20 g/dLを超えたため瀉血を何度か繰り返し、数ヶ月で瀉血の必要がなくなりました。その後しばらく安定し、血糖コントロールもグリメピリド、ピオグリタゾン、メトホルミンでほぼHbA1c 7%前後が維持できていました。時々HbA1cが8%台後半まで上昇したり、また6%位に下がったりの変動がありますが、生活習慣の乱れが原因と思っていました。

最近また多血症が悪化してきて瀉血が必要になりました。相変わらず血液内科には行ってくれません。今回は時期を同じくしてHbA1cも8%を超えてきました。

「あれっ?」と思って過去のデータを振り返ると、瀉血にまでは至らなかったHbの上昇(18 g/dL位まで)とHbA1cの上昇が一致する時期が以前にも何度か見つかりました。「何らかの理由で赤血球寿命が延びる→HbA1cが上昇してくる」と考えると辻褄は合いそうですが、科学的な検討はこれからです。

3)HbF高値の症例

京都への転居のため当院に紹介された60代の男性です。以前から糖尿病治療中で、「空腹時血糖は高いがHbA1cは低い」と言われていたそうです。初診の日に採血をしてHPLCにかけたところ、エラーでHbA1cが表示されず、確認したらHbFが11.9%(通常は0.5%位)と高値で、HPLCのグラフでも異常なところに大きなピークがありました。

検体を臨床検査会社に送ったところ、酵素法ではHbA1c 6.5%と普通に報告が返ってきました。あらためてHPLCでも測ってもらったらやはり測定不能で、「別の検体で希釈して再測定したのちに補正したら6.8%になった」との報告がきました。

アークレイに問い合わせたところ、希釈して測る方法も適切ではないとのことで、HbA1c÷(総面積-HbF)の式で計算すべきと教えてもらい、その後は院内検査でこのやり方で測っています。

この方のHbFがなぜこんなに高いのかに興味が移りますが、まだ答えは出ていません。血算は白血球数7300、赤血球数431万、Hb 16.2、Ht 45.6、MCV 106.0↑、MCH 37.6↑、MCHC 35.5、血小板数 22.3と、やや赤血球数が大きい以外は特に異常を認めません。文献的にはβサラセミア、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、甲状腺機能亢進症、HbF産生腫瘍、遺伝性持続性高HbF血症などがあるそうですが、上記の通り貧血はなく、甲状腺機能も正常でした。

4)結語

HbA1cと血糖の実感が乖離するケースは、上で紹介したように原因がわかるものばかりではありません。ほかにもいくつか、乖離を感じてグリコアルブミンを測ってみたらやはりHbA1cの値と食い違っていたが、高分解能HPLCによる解析を依頼してもヘモグロビンに異常は認められなかったケースが数例あります。

もちろんグリコアルブミンにも誤差が出る病態がいろいろありますので、このような場合何を信用したらよいのか悩みます。最近ではCGMやフリースタイルリブレなどで24時間の血糖変動も知ることができるようになり重宝していますが、これとて意外と誤差があったりします。ありきたりの言い方ですが、ひとつの指標を過信しないことが大切だと思っています。

<事務局>

京都糖尿病医会事務局
  〒606-8331 京都市左京区黒町30 クレール岡崎1階
  原山内科クリニック内

<ホームページ>

http://www.kyoto-dm.jp


糖尿病診療における保険上の留意点

在宅自己注射指導管理料2の算定について

1 在宅自己注射導入時の算定

月の途中から、初めて在宅自己注射指導管理料2を算定する場合は算定日から月の最終日までの指示回数にて算定する(たとえば、1日1回インスリン自己注射を指導、4月10日から初めて算定する場合は、「月27回以下;650点」を選択する)。

**自己注射回数が厳密に査定されるようになってきていますので注意・確認してください

2 在宅自己注射指導管理中の算定

初回導入2月目以降に在宅自己注射指導管理料2を算定する場合は、月中のどのタイミングで算定したとしても、その月に指示した回数にて算定する(たとえば、4月10日に在宅自己注射指導管理料2を算定したとしても、4月1日から30日まで(=当該管理料の属する月)の指示回数で「月27回以下;650点」または「月28回以上;750点」を選択する)。

**仮に、月途中で他院へ転院されても、当該月の管理料は算定できます

血糖自己測定器加算の算定について

血糖自己測定器加算については「血糖自己測定値に基づく指導を行うため自己測定器を使用した場合に」とあるため、本来使用した結果に基づき回数を決定すべきである。しかし、実際には患者が実際に行った検査回数を医師が把握することは困難なことから、医師が検査を指示した回数を記載し、当該加算点数を算定する。

**保健者から算定回数の記載がないとの理由で再審査請求があります

(文責 長谷川 剛二)

 
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