第22号 -平成28年4月20日発行-
■発行人:和田成雄  ■編集人:井原 裕  ■題字:福井 厳 顧問
第26回 糖尿病医会学術講演会
  • 平成26年12月13日
  • 京都府医師会館

「糖尿病と眼病変」

ディスカッション司会

日本バプテスト病院

米田 紘子 先生

ディスカッション司会

にしじま眼科

西嶋 一晃 先生

特別講演司会

ささもと眼科

佐々本 研二 先生

ワンポイントレクチャー司会

大石内科クリニック

大石 まり子 先生

ディスカッション:糖尿病と眼病変 内科の立場国立長寿医療研究センター 糖尿病センター 中川内 玲子 先生 眼科の立場国立長寿医療研究センター 眼科 藤井 有紀子 先生

平成26年12月13日(土)京都府医師会館にて「糖尿病と眼病変」をテーマに行われた。

 

最初に同一症例を内科、眼科それぞれの立場から解説いただき、問題点をディスカッションする試みを行った。内科から国立病院機構京都医療センター 糖尿病センターの中川内 玲子先生より、血糖コントロールや高血圧、高脂血症が及ぼす網膜症の進展への影響について解説があり、今回の症例の内科的解説が行われた、次に医療センター眼科の藤井友起子先生より眼科的経過や治療について発表があった。その後のディスカッションでは症例の眼科治療の選択や随時の血糖コントロールとの関係について、また急激な血糖コントロールが及ぼす網膜症悪化について現在の知見など活発なディスカッションが行われた。

(文責:米田紘子)
「糖尿病網膜症の治療最前線 -眼によりやさしい治療へ-」 国立病院機構京都医療センター 診療部長・眼科科長 喜多 美穂里 先生

2006年京大眼科准教授だった時に、この会の特別講演をさせていただいた。糖尿病網膜症に対する眼科診療がこの8年間でどう変わったかについて解説した。

1.検査の進歩

検査の進歩としては、まず、眼底カメラの広角化があげられる。これまで55°の写真を、眼位・頭位変換によって撮影後パノラマ合成していたものが、200°超広角カメラを使用して撮影すれば、1回の撮影で可能となる。また、赤外光で断層写真を撮る光干渉断層計(OCT)は、タイムドメインからスペクトラルドメインになり、解像度を飛躍的に増した。さらに、スエプトソースOCTによって造影剤の不要なOCTアンギオの時代が来るかもしれない。

2.レーザー治療の進歩

糖尿病網膜症の基本治療法ともいえるレーザー治療も、short weave パターンレーザーの開発によって、網膜内層への傷害の少ないレーザー照射が、効率的に行えるようになった。また疼痛が少ないことも、レーザー治療途中のドロップアウトを減少させることにも役立っている。

3.medical retinaの進歩

以前はオフラベル使用で対処していた、ステロイド懸濁液・抗VEGF薬の眼科製剤の市販化によって、硝子体注射療法の機会が増えている。これに伴い、黄斑浮腫に対する硝子体手術の適応は減少傾向となった。

4.surgical retinaの進歩

失明原因第1位であった糖尿網膜症は、その座を緑内障に譲り2位となった。最近では、その軽症化が言われている。しかし、網膜外科専門医のもとを訪れる症例は、まだまだ重症例も数多く、surgical retinaの出番は決して少なくなっていない。

surgical retinaにおける最近のトレンドは、「より小さく」「より広く」「よりやさしく」である。

<より小さく>

従来20G(直径約1mm)システムで行われていた硝子体手術は、小切開し、23G、25G(直径約0.5㎜)システム手術が主流となった。小切開化は、手術時間の短縮・後炎症の減少・早期視機能改善をもたらし、手術低侵襲化をもたらした。今後、27G、29Gと更なる小切開化が進むものと思われる。

<より広く>

従来は、手術用コンタクトレンズを使用して眼内を観察していたが、現在では、倒像鏡にコンバータシステムを備えた広角観察システムを用いるのが主流である。一度に100°を超える範囲を観察しながら手術操作をすることで、手術の効率化・安全化が図られた。

また、左手に持ったライトパイプを用いたポットライトで眼底を照らしていたが、広角観察システムを用いて、より広く眼底を見ることができるのだから、これではもったいない。そこで、現在では、シャンデリアライトで広く眼底を照らすことが行われる。このことによって、左手に攝子を持つことが可能となり、双手法で増殖膜処理が行えるようになった。

<よりやさしく>

糖尿病の際には、散瞳が不良である例も少なくない。こうした時には、広角観察系を用いても、眼球圧迫を併用した周辺手術操作が必要となる。眼球圧迫は、術中疼痛、術後炎症を増加させる。

周辺の観察に、内視鏡を用いれば、眼球内から直接眼内を観察することができるため、眼球圧迫は不要で、手術の低侵襲化が図られる。つまりよりやさしい手術が可能となる。また、内視鏡で病変に近づけば、拡大して観察することができることも大きな強みである。眼内内視鏡は、小切開硝子体手術システムにも対応している。

ワンポイントレクチャー「COPD最近の話題」 浅本内科医院 院長 浅本 仁 先生

 
第27回 糖尿病医会学術講演会
  • 平成27年6月13日
  • 京都府医師会館

「肥満糖尿病患者の治療」

総合・特別講演司会

京都市立病院

小暮 彰典 先生

特別講演司会

島原病院

吉田 俊英 先生

「肥満症・2型糖尿病の外科治療の実際」 同志社大学 生命医科学部 教授 萩原 明於 先生
*患者体験談 医仁会武田病院 外科部長代理 岩田 辰吾 先生

(1) 世界の肥満症外科治療の現状

肥満症とその治療に関する「先進国」である米国を例に挙げて 世界の肥満症の現状を説明する。米国でも旧来は、肥満症の治療は食餌療法や運動療法を中心とする保存的治療を行うべきであるとされ、消化管に外科的処置を加える治療法(以下外科治療)は極めて例外的で特殊な症例に適応されるべき、というのが大勢を占めていた。しかし2005年に American College of PhysiciansからClinical Practice Guideline としてTreating Obesity with Drugs and Surgery が発表されるなど、内科医師にも肥満症外科治療の普遍性が一般認識となってきた。その理由の一つは、2005年前後から肥満症の外科治療の有効性を示す論文発表が相次いだ事にある。それら論文は、外科治療は保存的治療に比較して①リバウンドし難い(優れた長期的有効性)、②肥満の随伴諸病態の改善効果が高い(QOL改善効果)③延命効果が高い(生存率改善効果)④医療経済的に優位、など外科治療の優れた効果を明らかにした。その結果、2012年統計では、世界全体で34万件、米国内で20万件の肥満症外科治療が行われ、世界では肥満症の外科治療が肥満症の有力な治療手段となっている。

(2)本邦の肥満症外科治療の現況

一方本邦の2012年の外科的治療は175例と絶対数は非常に少ない。しかしここ数年の増加率は大で2014年には約1.5倍と急増している。その背景には、学会の努力と厚労省の施策があると思われる。すなわち、2008年第1回日本肥満症治療学会の開催に合せて学会内に外科部会を設置し、本邦の肥満手術の在り方の検討を開始、 2009年11月には肥満症外科治療ガイドラインが発表された。厚労省の施策では、2010年1月に肥満症外科治療の一部の胃袖状切除術を先進医療に認定、 2014年4月には胃袖状切除術を条件付きながら健康保険適応としている(表-1)。

(3)肥満症の外科治療とは

ここで胃袖状切除術などの肥満症の外科治療を概説する。 肥満症外科治療には、小腸の消化吸収を抑制する手術と、胃容量を縮小して食物摂取量を減量させる胃縮小術に大別される。本邦で保険適応されている胃袖状切除術はこの胃縮小術の一種である。これらの手術は一長一短があり症例に合せて選択される。欧米では、上記の2種類の手術を組み合わせて、短所を除き長所を高めた手術も行われている。本邦でも肥満症手術を実施している現場からは、この2種類を組み合わせた手術の保険適応が要望されている。

(4)治療の実際―症例提示と患者さんとの対談

講演での症例的を概説する。症例は39歳女性、BMI=45.5、糖尿病でインシュリン32U/日を使用していた。食餌療法を何度も試みるがリバウンドし、HbA1cが8~10で改善しない状態を長期間続けていた。しかし胃袖状切除術を受けた1ケ月後には糖尿病薬は不要となり、9ケ月後にはBMIも30となって、その後も体重減少中である。

会場には別の男性患者さんにお越し頂き、腹腔鏡下胃袖状切除術を受けて、糖尿病薬が不要となり、順調な体重減少と顕著なQOLの改善を経験している体験談を語って頂いた。但し手術療法には、その後の食餌療法の実践などの自己努力も必要であり、手術をすればそれで終わりではない事など、重要な体験談を述べて頂くことが出来た。

結論として、肥満症・糖尿病の有力な治療手段である胃袖状切除術は、保険適応となっており更なる普及が望まれる。しかしその効果実現には術後の食餌療法などの医師と患者の長期の努力が重要で、安易な実施ではなく、責任ある医師と実施機関での実施条件に適合した実施が重要である。

表-1 肥満症外科手術の保険適応条件(簡略化してある)

◯患者条件

BMI 35以上

6ケ月以上の保存的治療に抵抗

糖尿病、高脂血症、高血圧などを伴う

◯施設条件

厚労省の認めた施設で実施*

*京滋地区では以下の3施設のみ。

武田総合病院(京都)

草津総合病院(滋賀)

滋賀医科大学(滋賀)

「肥満2型糖尿病の実践的管理」 社会医療法人誠光会 草津総合病院 理事長 柏木 厚典 先生

 
第26回 京都糖尿病医会地域学習会

2015年3月9日(土)、午後2時から第26回京都糖尿病医会地域学習会を京都北医師会、西陣医師会、上京東医師会と共催のもと京都第二赤十字病院多目的室で行いました。当日は雨天の中、9名の御参加をいただきました。今回のメインテーマは糖尿病薬物療法の最も重要な副作用である重症低血糖を取り上げました。

会は京都糖尿病医会会長の和田先生の御挨拶で始まりました。第一部の演題1は京都第二赤十字病院代謝・腎臓・リウマチ内科部長の長谷川が「京都第二赤十字病院 糖尿病病身連携-地域の糖尿病診療レベル向上を目指して-」と題して、大学病院に準ずる機能を有する基幹病院である京都第二赤十字病院の糖尿病病診連携のあり方、目的、現状についてお話しました。演題2は京都第二赤十字病院代謝・腎臓・リウマチ内科の大坂医師が重症低血糖症の症例報告をしました。厳しいながらも何とか老々介護で維持できていた生活を、最後に医療者が重症低血糖で崩壊させてしまった症例であり、糖尿病治療とは何かということを改めて考えさせられる症例でした。また、フレイルな高齢者に起こる重症低血糖の身体被害の大きさも認識すべきと思いました。

特別講演は、京都市立病院糖尿病代謝内科の小暮彰典部長に「症例から学ぶ-重症低血糖を防ぐには」という御演題で御講演いただきました。重症低血糖が引き起こす身体的被害、社会的喪失についてのレビューの後、重症低血糖10例の自験例と文献検討をもとに「いかにして重症低血糖を防ぐか」という問題についてお考えを述べていただきました。重症低血糖患者はほとんど高齢でありSU薬かインスリンのいずれかを使用していること、加齢に伴う腎機能障害が存在すること、また、HbA1cが6.5%未満と厳格すぎるコントロールがなされていることが明確に示されました。重症低血糖を防ぐためには、高齢者の血糖コントロール目標の見直しとともに、日々の診療のなかで特にSU薬/インスリンを使用している高齢者に注意することの重要性を強調されました。

重症低血糖は診療医が注意することにより防ぎ得る~防ぐべきものであるということを皆で再認識し、会は終了しました。雨は小雨から本降りに変わっておりました。

(文責:京都第二赤十字病院 代謝・腎臓・リウマチ内科 長谷川剛ニ)
 
糖尿病医会事務局だより
かぎもとクリニック 鍵本伸二

今年の残暑は意外なほどあっけなく通り過ぎ、秋の気配が漂ってきました。朝晩肌寒く感じる日が増えましたが、会員の先生方におかれましてはお変わりございませんでしょうか。

事務局から毎度のお願いですが、京都糖尿病医会では様々な情報交換のためにメーリングリストを活用しております。まだメーリングリストに登録されていない先生がおられましたら、是非ご登録頂きますようお願い致します。登録は事務局までFAX(075-494-3931)またはメール(doctor@kagimoto.jp)で、アドレスをお知らせ下さい。また、勤務先や連絡先の変更などがありました際にも、事務局までご連絡を頂戴できますと大変有り難いです。

さて、事務局だより恒例の与太話、今回は糖尿病学会総会・学術集会が開催された下関・門司のネタを少々。まじめな学会参加記は別の先生が書かれることと思いますので、私は恐らく殆どの先生が行かれなかったであろう、隠れた名所(?)をレポートします。

参加された先生は門司-下関の会場間を移動する連絡船に、一度ならず乗られたことと思いますが、関門海峡を歩いて渡ることができるのはご存じでしょうか。門司港から東を見ると関門橋が見えています。この関門橋は高速道路ですが、その下を国道2号線の関門トンネルが通っています。このトンネルは二重構造で上が車道、下が人道になっており、車道は有料道路ですが人道は無料(自転車や原付は有料で降りて押さなければならない)で通行できます。ちなみに人道も国道2号線ですが、人道のどちらの入り口も国道2号線に接続していません。

門司港の駅を出ると門司港レトロ観光トロッコ列車があります。平日は運行していないため、学会の時には乗れませんでしたが、トロッコ列車の線路に沿って東に進んでいくと、関門橋の下に着きます。この辺りは和布刈(めかり)という地名で、関門海峡で最も狭くなるため古くから交通の要所とされ、海岸にある和布刈神社は仲哀天皇9年(200年)に創建されたと伝えられているそうです。

和布刈神社を過ぎるとすぐ人道の入り口があり、エレベーターで地下60mまで降りると幅4m、長さ780mの人道トンネルのスタートです(写真1)。トンネルの中は結構大勢の人が歩いており、中にはジョギングしている人もありました(写真2)。トンネルの真ん中に県境があり、観光客にとっては絶好の撮影スポットです(写真3)。トンネル両端のエレベーターホールに半円のスタンプがあり、地図に押すと横断祈念の図柄が完成するようになっています(写真4)。下関側に着くとエレベーターで再び地上に出て関門橋の下を通り、国道9号線を海沿いに西に向かって歩き、唐戸市場の前を通り過ぎると、学会場としても使われていた豪華客船ぱしふぃっくびいなすが見えてきました。

(写真1)

(写真4)

(写真2)

(写真3)

 
糖尿病診療における保険上の留意点
  • ●血糖自己測定を算定する時は、必ず測定記録を残して下さい。また、実際の測定回数と算定回数とに乖離が生じないように保険請求して下さい。
  • ●「糖尿病疑い」の病名でのHbA1c測定は、「糖尿病診断のフローチャート」に従ってください。
  • ●「糖尿病疑い」の病名での1.5AG、グリコアルブミン測定は不可です。(定義されていません。)
  • ●SGLT2阻害薬投与時のケトン体測定は画一的、連月にならないよう気を付けて下さい。
  • ●「糖尿病(性)腎症4期」で尿中アルブミンの測定は、定義上は可能ですが、必ず測定理由を注記して下さい。
  • ●GLP-1製剤、とくにバイエッタおよびビデュリオンを使用する時は、併用薬に注意して下さい。現在は次のように制限ざれています。
    2型糖尿病(但し、食事療法・運動療法に加えてSU剤(BG系薬剤又はTZD系薬剤との併用を含む)を使用しても十分な効果が得られない場合に限る)。
  • ●SU薬とグリニド系薬剤(合剤を含む)の併用は容認されていません。
  • ●DPP4阻害薬とグリニド系製剤の中の「ナテグリニド」(ファスティック、スターシス)との併用は容認されておりません。
  • ●ビグアナイド製剤で1日750㎎以上の投与が認められているのは先発品ではメトグルコのみです。後発品では「MT」の記載のあるもののみです。
  • ●インクレチン製剤とDPP4阻害薬との併用は、不可です。
  • ●在宅自己注射指導管理料および導入初期加算の算定に関しては、「在宅自己注射の導入前に、入院又は2回以上の外来、往診若しくは訪問診療により、医師による十分な教育期間をとり、十分な指導を行った場合に限り算定する。」と変更になりました。そのため、通院中の患者さんには、その日に導入可能となりましたが、初診の患者さんには注意が必要です。
    そこで、初診時に自己注射を導入しなければならない時は、①同日再診とする。②初診時に注射はするが保険請求はしない(1週以内に受診された時に薬剤、自己注、導入初期加算などを算定する。)③初診時31番コードでインスリンを算定(残は廃棄)、2回目受診時も同様に行い、次いで14番コードで薬剤、自己注、導入初期加算などを算定する。などの案が現在の所、検討されています。
  • ●2以上の保険医療機関において、同一の患者について異なる疾患の在宅自己注射指導管理料を行っている場合に、それぞれ当該指導管理料を算定できることになりました。
(文責 京都糖尿病医会会長 和田成雄)
 
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