第13号 −平成20年10月15日発行−
■発行人:土井邦紘  ■編集人:和田成雄  ■題字:福井 厳 顧問
第13回京都糖尿病医会 学術講演会
テーマ:メタボリックシンドローム
平成20年6月28日 京都府医師会館
 平成20年6月28日に京都府医師会館で第13回京都糖尿病医会学術講演会が開催されました。今回は、初めての試みとして、京都小児科医会との共催の形で、メタボリックシンドロームを小児科から、内科からの両方の視点で見つめるというコンセプトで、小児科側からは駿河台日大大学病院 小児科講師、浦上達彦先生を、内科側からは東京逓信病院 内分泌代謝内科部長、宮崎滋先生をお招きして御講演いただきました。以下に御講演と質疑応答の内容を要約いたします。
特別講演1
演者:駿河台日大大学病院 小児科講師 浦上達彦先生
座長:京都第一赤十字病院 小児科 木崎先生
「小児2型糖尿病の病態について」
小児2型糖尿病の疫学
 2000年ごろまでは、小児の糖尿病と言えば1型糖尿病との先入観があった。小児2型糖尿病はそれ以降に急激に増加し、まるで流行疾患のように取り上げられているが、実はそうではない。小児2型糖尿病の頻度は、アメリカなどではピマインディアンのような糖尿病の高リスクのマイナーエスニック群での研究が主体であったが日本には1974年頃から小中学校における学校検尿・糖尿病検診のしっかりとした成績があり、これを見ると当初から2型糖尿病の方が1型糖尿病よりも多かったことがわかる。東京都の7〜15歳の学校検診(1974年-2004年)によると小児2型糖尿病の発症率は2.6人/10万人年であった。横浜市(1982年-2001年)の3.2人/10万人年、日本全国調査(1998年-2000年)の3.3人/10万人年等も同様の結果となっている。1型糖尿病は約2人/10万人年であり、以前から2型糖尿病の方が多いのである。小学生の人口10万人当たりの小児2型糖尿病の頻度は、東京都で0.75人、横浜市で1.50人、新潟で1.7-2.8人、福岡で1.62人に対し、中学生の人口10万人当たりの小児2型糖尿病の頻度は東京都で6.27人、横浜市で6.65人、新潟で6.0-13.4人、福岡で5.05人と中学生で増加するという特徴も見られる。東京の学校検診では、前日夜から排尿させなかった早朝尿による1次検尿で尿糖(+/-)〜(+)であった群において2次検尿を同様に行い、再び(+/-)〜(+)であった群にOGTT、HbA1c等の精査を行う。この方式では0.02-0.03%の学童で2次検尿陽性となる。OGTTでは負荷前、2時間後の血糖、IRIを、さらに尿糖、尿ケトン、HbA1c、AST、ALT、総コレステロール、中性脂肪、抗GAD抗体を検査し、糖尿病と診断された場合専門医の受診を勧めることとなる。1974年から2004年までの東京都の成績を見ると、2型糖尿病の発症率は1980年まで2人/10万人年以下であったのが1980年以降2.5-4.5人/10万人年に増加し、その後頭打ちの状態である。横浜市でも同様の傾向を認める。小児2型糖尿病の頻度は肥満児の増加に伴って増加している。
小児2型糖尿病の特徴
 先述の通り中学生において増加する。東京都で1974年〜2002年までに発見された小児2型糖尿病232例のうち、小学生が20%で中学生が80%となっている。小児では標準体重を20%超過した児を肥満児と定義するが、先述の東京都の232名の小児2型糖尿病患者のうち83.6%が肥満児であった。肥満児の数は1980年以降増加しており、中学生の肥満児は10%を超過している。肥満児は特に男児で増加している。東京都の小児2型糖尿病の男児では、標準体重の40%以上の高度肥満児が65.1%(40%以上60%未満が28.3%、60%以上が36.8%)存在した。これに対し女児では非肥満児が23.0%で、40%未満の軽度肥満児が40.5%と非肥満の傾向が高かった。肥満と異なる病態として、内分泌的な環境の変化に伴ってインスリン抵抗性が増加することも知られている。この傾向は特に女児において顕著であり思春期にはインスリン抵抗性が約30%増加するとされ、女児の非肥満小児2型糖尿病患者の病態の一因と思われる。また、小児2型糖尿病患者には家族歴が濃厚であることも特徴であり、家族歴に糖尿病を有する例が56.5%存在し、その中で第一近親者に糖尿病を有する例は39.2%であった。
小児2型糖尿病と生活様式の変化
 小中学生のエネルギー所要量は年齢や生活強度によって異なるが、小学生低学年で1500〜1900kcal、小学生高学年で1750〜2250kcal、中学生2000〜2550kcalとされる。しかし肥満児においては3000〜3500kcal/日と、同年齢健常児のエネルギー所要量を500〜1000kcal上回る過剰なエネルギーを摂取している児が多い。内容的にジュース、スナック菓子、ファーストフードなどに偏り、動物性タンパク、脂肪の摂取率が多い。さらに、運動時間の減少も特徴である。室内でのコンピューターゲームや、テレビ、ビデオ鑑賞といった娯楽で費やす時間が増加しているためである。現在では都市部より非都市部で運動量が減少する傾向にある。スポーツクラブへの参加は、むしろ都市部で多くみられる。
小児2型糖尿病発症の発症要因、インスリン分泌能とインスリン抵抗性
 小児においても成人と同様に、脂肪細胞が肥大し、アディポサイトカインが増加することが病態と考えられている。成人では、日本人では白人よりもインスリン分泌能が低下しているとされているが、小児ではどうであろうか。東京都学校検尿・糖尿病検診により2型糖尿病と診断された160名の小児での検討では、OGTTにおいて負荷前のIRIは肥満度20%未満の非肥満児でも15μU/ml程度と高く、肥満度が上昇するにつれ上昇し肥満度60%以上の群では実に40μU/ml近く、平均で28.0±17.7μU/mlであった。120分のIRIも平均で66.4±48.0μU/mlと高値で、こちらも肥満度20%未満の群でも約40μU/mlと正常(25.9±16.9μU/ml)より高く、肥満度60%以上の群では80μU/ml近くとなっていた。HOMA-IRも肥満度20%未満の群でも7.5(正常2.2±0.2)と高く肥満度60%以上の群では実に15以上、平均で12.4と強いインスリン抵抗性を認めた。Kobayashiらによるミニマルモデルを用いての検討では、小児の2型糖尿病においてもインスリン初期分泌の低下が指摘されている。我々の検討ではOGTT30分IRI値の検討ができていないが、小児2型糖尿病の病態は成人の2型糖尿病に類似した遅延型過分泌の状態であると考えられ、一方で高インスリン血症を伴い、インスリン抵抗性が強いという特徴がある。胎内環境も小児2型糖尿病発症に影響する。母親の食事摂取内容や喫煙の影響による出生時の低体重が問題視されているが、低出生体重児では2型糖尿病の発症が増加する。インスリン抵抗性の獲得、レプチンの分泌異常、また、妊娠期間中の母体にストレスが多いと胎児のグルココルチコイド活性が亢進するように胎盤や胎児機能が変化することも報告されている。出生時体重が多い児でも糖尿病の発症は多く、U字型の分布を示す。両親に肥満があると、児も肥満傾向にあるともされる。成人に比べて生活歴の短い小児では、生活習慣要因より遺伝要因による肥満が顕在化しやすいと考えられる。
小児2型糖尿病とメタボリックシンドロームとの関係
 7歳から16歳までの小児2型糖尿病患者156名(男児68名、女児88名)での検討では、肥満度20%以上の児は82.5%であった。ここでも肥満度20%以上の割合は男児89.7%、女児76.1%と男児で肥満傾向が強かった。FBG 190.4±64.0mg/dl、HbA1c 9.6±2.3%、IRI 28.0±7.7μU/ml、HOMA-R 12.4±7.9と、ここでもインスリン抵抗性が認められた。この集団に対し血圧、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、ALTを検討した。総コレステロール、HDLコレステロールのこの集団の平均値は小児科領域の正常範囲内であったが、中性脂肪は133.0±74.6 mg/dl、ALTも 64.7±69.7 IU/lと高く、異常値をとる児の割合もそれぞれ中性脂肪で男児52.9%、女児45.5% 、ALTで男児50.0%、女児48.3%と約半数に上った。厚生労働省研究班の2007年の基準を鑑み、糖尿病の他に肥満度+20%以上、中性脂肪120mg/dl以上and/or HDLコレステロール40mg/dl未満、収縮期血圧125mmHg以上and/or 拡張期血圧70mmHg以上の2つ以上を満たす場合小児メタボリックシンドロームと診断すると、全対象の48.7%(男児の58.8%、女児の40.9%)がメタボリックシンドロームと診断された。IDFの小児メタボリックシンドロームの基準は日本と異なるが、これに照合しても35.8%の児がメタボリックシンドロームと診断でき、やはり高頻度であった。小児メタボリック症候群の頻度に関する他の研究でもアメリカで一般小児の5〜10%、肥満児の約30%、日本では一般学童の0.9〜1.4%、肥満児の15〜20%にメタボリック症候群が存在すると報告される。さらに小児2型糖尿病患者におけるメタボリック症候群の頻度はアメリカの報告では76.9から92.1%と日本人での研究より高頻度であった。中性脂肪、ALTの上昇、HDLコレステロールの低下といったメタボリック症候群の指標は、FBG、HbA1cより、IRI、HOMA-IRといったインスリン抵抗性とよく相関した。この結果から小児2型糖尿病における脂質異常症、肝機能障害の要因として、高血糖よりインスリン抵抗性が関与していることが証明された。小児2型糖尿病では、診断時においても高頻度にメタボリックシンドロームに合致する高血圧、脂質異常および肝機能障害が存在することが明らかになった。この要因として、2型糖尿病に高頻度にみられる肥満に基づくインスリン抵抗性が関与しているものと思われた。
質疑応答
【Q】 小児2型糖尿病は低出生体重児、高出生体重児の両方に多いとされるが、両者の病態に相違はあるのか?
【A】 レトロスペクティブにこの傾向はあるが、それぞれの特徴については一定の見解はない。プロスペクティブな検討が必要と考えられる。
【Q】 小児肥満の例で、小児期に2型糖尿病を発症していなくても、中学校卒業後、成人後に発症する例が多いのではないか?
【A】 大木らは、小児肥満検診における糖尿病の発見率が約4%であると報告している。このような高リスク群をフォローアップすることで、明らかになると思われる。
【Q】 小児2型糖尿病の中でメタボリックシンドローム合併の肥満型と、やせ形の違いはどうか?
【A】 欧米では小児の非肥満糖尿病は、2型糖尿病ではなくMODYやミトコンドリア異常による糖尿病とみなされる。日本でも尿糖陽性でもFBG正常の例ではMODYが存在し、MODY2型さえ散見される。ミトコンドリア異常による糖尿病も発見例が増加している。非肥満症例では非自己免疫の1型糖尿病も含め、存在が注目されており、肥満型とは病態が異なると推測される。 【Q】 小児糖尿病の、中学校卒業後の経過観察は小児科、内科のいずれで行うべきか?
【A】 心理的な援助を含めて考えると、成人後であっても小児科が関与するべき。演者は40歳の症例で、その児も糖尿病というケースも診療している。しかし、大血管障害、悪性新生物のスクリーニング、治療などは内科の得意とする領域であり、それぞれの長所を生かすために両科で協力し合い診療するのが理想的と思われる。
特別講演2
演者:東京逓信病院 内分泌代謝内科部長 宮崎 滋先生
座長:京都第一赤十字病院 内科 田中 亨先生
「糖尿病とメタボリックシンドローム」
はじめに
 肥満、メタボリックシンドロームは今や全世界で脚光を浴びている。特に1970年以降、脳血管障害、心血管障害、悪性新生物などメタボリックシンドロームに関連した疾患が現在の死因の大部分を占めるためである。しかし、つい100年前の死因は肺炎などの感染症が多かった。現代の高栄養、低活動性の時代の象徴のようでもある。 日本人では、BMIは男性ではすべての年齢層においてBMIが増加傾向にある。女性では40歳台まではやせ型の傾向にあるが、50歳台以上でBMIが上昇傾向となる。そして、体重増加傾向を示す全ての性別年齢層でメタボリックシンドロームが増加している。肥満者の増加の原因には脂質摂取量の増加と、車社会への変化がある。自動車依存率が高いアメリカ、イギリス、カナダでは肥満者が多いとされる。日本でも沖縄県、青森県、北海道で、肥満者が多い。
肥満と肥満症の違いについて
 日本ではBMI25kg/m2以上を肥満と定義する。この中で内分泌性、遺伝性、視床下部性など、原因が明らかなものは二次性肥満とされる。それ以外の病因不明のものが原発性肥満とされる。これらの中で健康障害を有する者が肥満症とされる。肥満症の中で、骨、関節の疾患、睡眠時無呼吸症候群など、脂肪細胞の量的な異常が原因で発症する疾患は、皮下脂肪型肥満症の特徴である。一方で2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳血管障害、心血管障害、脂肪肝、NASH、痛風、癌など、内臓脂肪から分泌されるTNFα、アンギオテンシノーゲン、PAI-1などの増加、アディポネクチンの減少によるインスリン抵抗性増加、血液凝固亢進などを原因に発症する疾患は脂肪細胞の質的な異常による。内臓脂肪型肥満の特徴であり、メタボリックシンドロームとはこのような内臓脂肪細胞の機能異常によって引き起こされる種々の疾患の複合体である。
メタボリック症候群の診断基準について
 日本のメタボリックシンドロームの診断基準は、その病態である内臓脂肪の蓄積に重きを置き、内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲径、男性85cm、女性90cmに加え、中性脂肪150mg/dl以上、収縮期血圧130mmHg and/or 拡張期血圧85mmHg、空腹時血糖110mg/dl以上の条件を満たすこととされている。この診断基準に対して、現在カットオフ値の合理性に乏しいのではないか、心血管障害のリスクを正しく反映しているのか等の批判も見られる。実際、ウエスト周囲径に対してはIDFではヨーロッパ人では男性94cm以上、女性80cm以上、アジア系の人種では男性90cm以上、女性80cm以上としており、日本の基準と異なる。実際に心血管障害のリスクの観点からはIDFの基準の方がよく反映しているとの意見もあるが、日本の基準はあくまで内臓脂肪の蓄積という病態の基本に基づいている。再検討を試みても、やはりCTスキャンで測定した内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲径は男性85cm、女性90cmである。ちなみに、アメリカのウエスト周囲径の基準の男性102cm、女性88cmはBMI30kg/m2で設定され、ヨーロッパの男性94cm、女性80cmはBMI30kg/m2、ウエストヒップ比男性0.95、女性0.8で設定されており、内臓脂肪面積に基づいたものではない。
メタボリックシンドロームは心血管疾患、脳血管疾患の危険因子である
 アメリカでは、メタボリックシンドロームの患者では心血管死の危険が2倍とされる。日本でもPCI後の患者の経過観察でメタボリックシンドロームを有する場合心血管死の危険が増加するなどの報告がある。メタボリック症候群の患者が心、脳血管疾患に至るケースレポートからは、30歳代では肥満を有するのみであったのが、50歳にかけて徐々に肝機能障害、中性脂肪上昇、血圧、血糖値の上昇を来し、50歳代で心筋梗塞、脳梗塞を発症することが記されている。肥満を来してから約20年で大血管障害が出現することがうかがい知れる。糖尿病とメタボリック症候群の関連については、BMIとIGT、2型糖尿病がよく相関する。肥満患者の健康障害合併率を調査すると、脂質異常症>高血圧>脂肪肝>高尿酸血症>糖尿病の順に多く、糖尿病は約30%程度である。全て男性が女性より多い。糖尿病患者の中にメタボリックシンドロームの基準を満たすものは86%あり、メタボリックシンドローム群の患者の中に糖尿病患者は34%存在するとの報告もあり、やはり両者は密接に関連する。逆にアメリカのDiabetes Prevention Program、フィンランドのDiabetes Prevention Studyの結果から見られるように、生活習慣介入による減量でIGTから2型糖尿病の発症を抑制出来るのも事実である。
メタボリックシンドロームの成因
 メタボリックシンドロームの成因は内臓脂肪の肥大化によるアディポサイトカインの分泌異常が主体である。肥満症で内臓脂肪も多いケースはもちろん、BMIから診断した肥満がない場合でも、内臓脂肪量が増加している例では中性脂肪の増加、HDLコレステロールの減少がみられる。肥満者では脂肪細胞が肥大化する。ここから分泌されるTNFαやレジスチンはインスリン抵抗性、2型糖尿病の原因となり、アンギオテンシノーゲンは高血圧の原因となる。実際に内臓脂肪細胞にアンギオテンシノーゲンのmRNAが発現しており、肥満者で非肥満者よりアンギオテンシノーゲンmRNAの発現が増加している。アンギオテンシノーゲンは、アンギオテンシンT、アンギオテンシンUへと変換され、前駆脂肪細胞の分化を抑制する。この結果骨格筋への脂肪沈着が促進されるが、降圧剤であるARBでアンギオテンシンUの受容体への結合をブロックすると前駆脂肪細胞の分化は促進され、小型脂肪細胞が増加し、骨格筋への脂肪沈着が抑制される。さらにインスリン抵抗性を改善させるアディポネクチンも増加する。ARBにより耐糖能が改善したり、時に低血糖を生じたりするのはこのためと考えられる。また、減量して内臓脂肪が減少することでもアディポネクチンが増加する。このように、脂肪細胞は単にエネルギーを貯蔵するのみでなく多彩な機能を有する。さらに興味深いことに皮下脂肪を内蔵脂肪に移植すると耐糖能が改善するとの報告があり、皮下脂肪組織の機能の研究も注目されている。肥満は、脂肪組織における慢性炎症の状態でもある。肥満者の脂肪組織にはMCP1の発現が亢進しており、これがマクロファージを誘導し炎症を来す。実際にメタボリックシンドロームの構成要素を3個以上有する患者ではCRPが上昇している。慢性的な炎症の病態は高血圧や動脈硬化の原因となる。
内臓脂肪の減量が重要である
 このように、メタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積によって様々な致死的疾患の原因となるのだから、内臓脂肪の蓄積を防ぎ病態の改善に努める必要がある。東京逓信病院では2泊3日のメタボリックシンドローム教育入院を行っているが、退院6ヶ月後にBMIが低下し、中性脂肪の低下、HDLコレステロールの上昇が得られ、HbA1cも入院時の平均が6.1%であったのが5.6% に改善していた。メタボリックシンドロームの基本的な部分は氷山でいえば水面下に存在する。水上に見えているのは、高血圧、脂質異常症、糖尿病などだが、水面下の本体である内臓脂肪蓄積を是正する必要がある。メタボリックシンドローム型の糖尿病では、脂質異常症、高血圧も合併し、心血管疾患の罹患率が高まる。30年前には存在しなかった、いわば「氏も素性もわからぬ糖尿病」である。生活習慣介入で改善できるもので、遺伝はせずに一代限りである。それと比較すると、非肥満の糖尿病は、「由緒正しい糖尿病」ともいえる。メタボリック症候群に対するアプローチとしては、先ずライフスタイルの改善に取り組み、体重、特に内蔵脂肪量を減らすことが大切である。それでも改善しない糖尿病、高血圧、脂質異常症があれば薬物療法を行う。安易に薬物療法のみ行うことは、真の意味での治療にはならない。
質疑応答
【Q】 皮下脂肪組織を腹腔内に入れると耐糖能が改善するという結果は非常に興味深い。今後、皮下脂肪組織に対してどのような展開が予測されるか
【A】 皮下脂肪組織は女性に多い。肥満は脂肪組織の慢性炎症でもあるがCRPは女性で男性よりも多い。しかし大血管障害は男性に多く、皮下脂肪組織が何らかの形で抑制的に働いている可能性がある。レプチンは皮下脂肪組織に多いが、他にも新たなアディポサイトカインが存在するのかもしれない。
【Q】 褐色脂肪の機能についてはどうか
【A】 齧歯類では褐色脂肪組織にはエネルギー消費亢進、肥満の抑制作用がある。ヒトでもPETで大動脈周囲や、肩甲骨間に褐色脂肪組織が確認される。個人差はあるが褐色脂肪組織の活性が高い個体がある可能性がある。褐色脂肪細胞を活性化させるβ3-アドレナリン受容体アゴニストが開発され、齧歯類では脂肪減量、耐糖能改善効果が確認されているが、ヒトでは心拍数増加、皮膚紅潮等の副作用のため臨床応用には至っていない。
【Q】 ウエスト周囲径について、他の疾患の診断基準とは異なり、ボーダーラインが設定されていないのは何故か
【A】 確かにウエスト周囲径85cmで全員切ってしまうのは極端かもしれないが、メタボリックシンドロームの診断基準は、疾患の診断基準というより、基本病態である内臓脂肪量増加の可能性を取り上げて、それに起因した疾患が存在しないかを調べる入口のようなものである。リスクのスクリーニングをきっちりするために基準が厳しめとなっている。
【Q】 ウエスト周囲径は、診断の入口とのことだが、ウエスト周囲径が正常で他の要素がある群とウエスト周囲径が大きく他の要素も有する群で心血管障害のリスクに大差ないのではないか
【A】 この点が近年議論されているが、メタボリックシンドロームの病態は内臓脂肪量の増加に伴うアディポサイトカインの異常に起因する動脈硬化性疾患易発生状態である、この意味で、メタボリックシンドロームというからにはウエスト周囲径増加が必須である。日本の診断基準の根拠は、ここである。ウエスト周囲径が増加していると中性脂肪、血圧、空腹時血糖の上昇の3項目中2項目以上のケースが約80%存在する、逆にウエスト周囲径85cm以下だと約20%にしかない。従って中性脂肪、血圧、空腹時血糖の3つの上昇があれば、内臓脂肪量は増加していると考えてよい。内臓脂肪量の増加をスクリーニングする上で、ウエスト周囲径の測定は重要である。
 以上のように、大変示唆に富み、かつ日常の診療に有用な内容の御講演をいただき、質疑応答も活発に行われました。この講演会が盛況に行われましたことは、竹内会長をはじめとします、京都小児科医会の先生方の御協力の賜物であり、この場をお借りしてお礼申し上げます。
(文責)高倉 康人

 なお、それに先立つ理事会にて会長選挙が行われ土井邦紘先生が満場一致で会長に選出されました。また新理事の推薦が後日行われ会長以下58名の理事が決定いたしました。
京都糖尿病医会役員名簿
浅山邦夫先生(浅山眼科医院)   土井邦紘先生(土井内科)
熱田晴彦先生(京都第二赤十字病院)   中井義勝先生(烏丸御池中井クリニック)
伊藤あゆ子先生(葛山医院)   中埜幸治先生(公立山城病院)
稲垣暢也先生(京都大学)   中村直登先生(京都府立医科大学)
梅川常和先生(梅川内科クリニック)   西川昌樹先生(西川内科医院)
大石まり子先生(大石内科クリニック)   西野和義先生(十条リハビリテーション病院)
岡本吉将先生(岡本内科医院)   長谷川剛二先生(京都府立医科大学)
垣内 孟先生(垣内医院)   畑 雅之先生(畑内科医院)
鍵本伸二先生(かぎもとクリニック)   服部正和先生(京都医療センター)
梶山静夫先生(梶山内科医院)   福井 巌先生(醍醐の里)
金綱隆弘先生(西陣病院)   福井道明先生(京都府立医科大学)
紀田康雄先生(第二岡本病院)   細川雅也先生(京都大学)
清野 裕先生(関西電力病院)   桝田 出先生(東山武田病院)
小出操子先生(小出医院)   松原弘明先生(京都府立医科大学)
佐々本研二先生(佐々本眼科)   松村理司先生(音羽病院)
四方泰史先生(あいよいばし四方医院)   三浦次郎先生(吉祥院病院)
須川秀夫先生(須川クリニック)   宮崎博子先生(京都桂病院)
菅原 照先生(京都医療センター)   森下寿々枝先生(蘇生会病院)
関 透先生(関医院)   森本昌親先生(ラクトクリニック)
千丸博司先生(大原記念病院)   八城正知先生(京都市立病院)
高尾嘉興先生(高尾医院)   山田和範先生(京都医療センター)
高木 力先生(高木循環器内科)   山本泰三(京都桂病院)
高倉康人先生(京都第二赤十字病院)   山本康正先生(京都第二赤十字病院)
田中 亨先生(京都第一赤十字病院)   吉川敏一先生(京都府立医科大学)
千原悦夫先生(千原眼科)   吉田俊秀先生(京都市立病院)
辻 俊三先生(宮津武田病院)   吉政孝明先生(吉政医院)
辻 光先生(辻内科医院)   米田紘子先生(日本バプテスト病院)
津田勤輔先生(京都大学)   和田成雄先生(和田内科医院)
土居健太郎先生(音羽病院)   荒木義正先生(荒木医院)
第13回 京都糖尿病医会地域学習会
 第13回京都糖尿病医会地域学習会が荒木義正先生および四方泰史先生のお世話により平成20年7月12日(土)午後2時30分より舞鶴赤十字病院会議室において18名の参加を得て開催されました。
演題1.「糖尿病性腎症の集約的治療の実際」:四方クリニック 四方泰史先生
 岡山大学での研究報告および最近の臨床知見を発表していただいた。集約的治療としては血圧、脂質、体重のコントロールとともに食事療法として蛋白制限、食塩制限などを行い、また薬物療法としてレニン−アンギオテンシン系抑制剤の投与および全身血圧の低下が必要である。腎症には炎症反応が関与しており、接着因子であるICAM-1のノックアウトマウスではマクロファージの浸潤が抑制されメサンギウム細胞の細胞外基質産生が抑制される。
演題2.のテーマは「持効型溶解インスリンアナログ製剤を用いた糖尿病治療の成績について」で3人の方が講演をされました。
演者1.曽我内科医院 曽我哲司先生
 2例の症例提示。第1例:59歳 男性。工事現場作業員で運動指導を行い、経口剤などで血糖コントロール可能であったが、現場を換わり運動量が減少しコントロール悪化。インスリン療法に変更。まだコントロールは不十分であり、運動を含めた指導を行っている。第2例:78歳 女性。インスリン療法中に乳癌の手術。ペンフィルNを用いていたが低血糖を頻回に起こし間食を取るために血糖の日内変動が大きく、コントロール不十分であった。間食の中止を指示すると共にランタスに変更し、血糖コントロールが可能となった。
演者2.澤田医院 澤田信先生
 2例の症例提示。第1例:60歳 男。インスリン分泌不良の慢性膵炎。当初、短時間作用型インスリンを用いていたが血糖コントロールは安定せず、ランタスに変更し、増量することによりHbA1c 8.8%から7.0%へと改善した。第2例:70才 男。混合型インスリン治療中に胃癌を発見され、胃全摘を受ける。その後oxyhyperglycemiaによりHbA1c上昇し即効型インスリン3回注射に変更したが改善見られずランタスに変更し血糖変動は安定した。
演者3.荒木クリニック 荒木 義正先生
 ランタスを用いた20例の臨床経過を説明され、レベミルを用いた5例と比較された。レベミルはややピークがあるようであり、その分、作用時間が短く朝食前血糖が上昇傾向であった。ランタス使用例は単独、食後高血糖改善薬、強化療法などとの併用が行われていたが、いずれも安定した血糖コントロールが得られた。そのあと症例報告を1例追加された。79歳 女。血糖790mg/dl、HbA1c 11%で入院を拒否したため毎日外来受診を指示し、補液とインスリン(ランタス+超即効型)療法によりコントロール可能となった。長い経験と専門的知識がなければ出来ない貴重な症例であった。
演題3.「コントロール不良の1型糖尿病 −CSIIを導入してもコントロール不良の1例−」
舞鶴共済病院 福田正基先生
 39歳 男。12歳時に糖尿病発症。増殖性網膜症にて光凝固療法を受け、慢性腎不全に対しては腎移植を受け、膵移植の登録をしている。インスリン強化療法を行っていたが血糖コントロールは不良で、CSIIを行いインスリン注入量をいろいろ変更を試みているが、それでも血糖の日内変動が大きく苦労している1例が報告された。
 いずれの講演に対しても活発な討論が行われ、多くの先生方がインスリン治療に苦労し、そして色々工夫しておられることが良く分りました。また舞鶴地域での糖尿病治療の質の高さを改めて認識させられました。  最後に土井邦紘会長より6月に行われたADAの報告があり会を終了しました。
ADAではAccord, Advance, VA 3つのスタディの報告があり、いずれも厳格な血糖コントロール群(HbA1c 6.5%程度)では通常療法群に比し心筋梗塞・脳卒中など心血管系疾患の死亡率は変化がないかむしろ死亡率が高いというセンセーショナルな結果でした。ただ、結果の解釈にはもう少し慎重でなければならないと思われます。またインクレチンに関する発表やdisposable CSII の機器の展示もあり、それらの紹介もしていただきました。
「文責 和田成雄」
役員会および理事会
第68回 京都糖尿病医会役員会
平成20年7月24日
報告事項
@第14回京都糖尿病医会学術講演会: 平成20年12月13日 古今烏丸 石田 俊彦先生 コーディネーター 鍵本伸二先生、大石まり子先生/テーマ:実効性のある糖尿病療養指導/専門でないが療養指導を熱心に行っている先生、療養指導士など3人くらい。安田雄二先生。 鍵本医院運動療法士。
A各種委員会報告:生涯教育:京都医学会「メタボリックシンドローム」医療安全委員会:第1回医療安全講習会 8月27日(水)
B審査会情報:β2-MG、α1-MG、シスタチンCなどの適応疾患、測定頻度などの見直しを予定。
C糖尿病対策推進事業委員会:府民向け講演会 京都会館 11月15日(土)ライトアップ:東寺五重塔/医師会との折り合いはついていないが、予算の問題上スポンサーが必要?
D複数製薬会社共同研究会(第一三共・持田製薬): 平成20年8月30日 東京医科大学 小田原雅人教授、京都大学 荒井秀典先生
E京滋糖尿病ディベートカンファレンス:平成20年9月25日(木)「肥満を伴う2型糖尿病患者の治療 −抵抗性改善剤 VS インスリン治療−」
Fその他:舞鶴にて地域学習会開催
協議事項
@第15回京都糖尿病医会学術講演会:平成20年6月27日 医師会館 コーディネーター:森本昌親先生、岡本三希子先生 稲垣暢也先生:糖尿病の代謝。地域連携。トピックス。
A第14回糖尿病地域学習会:平成20年11月1日(土)アピカルイン京都「糖尿病診療における左京区での病診連携の確立をめざして」午後4時〜6時半 米田紘子先生、 細川雅也(藤本新平)先生、 鈴鹿隆之先生
B第15回糖尿病地域学習会:平成21年夏 京都府南部 城陽:梅川常和先生 徳州会病院:末吉 敦先生
C府民対象講演会:京都府糖尿病対策推進会議と共同で。
Dその他:京府医大 吉村教授より膵移植に関する説明、講演:了承/西陣医師会:1月24日 ブライトンホテル/医師・コメディカル対象:健康増進を目指した・・・、療養指導を目指した・・・/伏見糖尿病研究会:連携パス作成/京都府医師会もパスを作成しようとしており、整合性を。
第69回 京都糖尿病医会役員会
平成20年8月28日
報告事項
@第14回京都糖尿病医会学術講演会: 平成20年12月13日 古今烏丸 パネルディスカッション:「外来で実施できる糖尿病患者教育指導の実際」専門医によるトピックス
A第14回糖尿病地域学習会:平成20年11月1日(土)アピカルイン京都
B各種委員会報告:生涯教育委員会:9月28日京都医学会「メタボリックシンドローム」保険医療協議会:経済諮問会議、脳卒中後遺症と認知症
C審査会情報:TZDとインスリンの併用。1型糖尿病に対するBG。
D糖尿病対策推進事業委員会:多社での共催。阪神岩田投手?
E安全対策:穿刺器具取扱い 真空採血管は消毒すればOK。
協議事項
@新役員:新役員推薦
A第15回京都糖尿病医会学術講演会:平成21年6月27日 医師会館
B第16回京都糖尿病医会学術講演会: 平成21年11月28日 糖尿病各分野での各論。
C第16回糖尿病地域学習会:第2日赤 高倉康人先生
D今後の複数製薬会社共同研究会:メーカーが賛同しなければ糖尿病医会単独で開催する。ディベート形式。
第70回 京都糖尿病医会役員会
平成20年9月25日
報告事項
@第14回京都糖尿病医会学術講演会: 平成20年12月13日 古今烏丸 石田 俊彦先生「あなたは良い医者?悪い医者?」パネルディスカッション
A第14回糖尿病地域学習会:平成20年11月1日(土)アピカルイン京都
B各種委員会報告:医療安全委員会:府民向け講習会「医療崩壊 賢い患者になりましょう」保険診療委員会:5分間ルールの問題点。
C審査会情報:文書注意報告。返戻レセプト。基金国保合意事項。
D糖尿病対策推進事業委員会:世界糖尿病デー 東寺ライトアップ/11月15日講演会
協議事項
@新役員:別掲
A第15回京都糖尿病医会学術講演会:平成21年6月27日 京都府医師会館「全身病としての糖尿病」稲垣暢也先生。地域連携
B第16回京都糖尿病医会学術講演会:平成21年11月28日(土)CKD:菅原 照先生
C府民対象講演会:糖尿病対策推進事業委員会と共催
D今後の複数製薬会社共同研究会:ED、インスリン、ACE-I vs ARB
保険診療Q&A
・糖尿病患者に対しては禁忌となっている薬剤がありますので注意して下さい。:セロクエル、ガチフロなど。
・入院患者の血糖測定回数:とくに決まりがあるわけではありませんが、重症度、使用薬剤などにより判断されています。例えば、食事療法のみで1日3回(入院日数の3倍)の測定は多過ぎるようです。
・1回の採血で血糖を検査室と簡易測定器との両者で測定しても、どちらか一方のみしか算定できません。
・インスリン抗体:インスリン治療歴のない場合は認められません。とくに入院時のスクリーニング検査としては認められていないようです。インスリン自己免疫症候群などが疑われる場合は傷病名を記載するか注記を付けて下さい。
・血糖自己測定加算:80回以上は1型糖尿病のみです。一般的には1型糖尿病ではビグアナイド剤やSu剤は適応がありません。混同のないように。
・HbA1c,GA,1.5AG測定が、経口剤・インスリンを投与開始後の6ヶ月間および1型糖尿病に対し2回/月可能となりました。
・血糖自己測定器加算が3ヶ月分を1度に算定出来るようになりました。3か月に1度しか来院されない患者さんに対して血糖自己測定器加算のみ1度に3か月分の算定が可能です。
・画一的検査に注意して下さい。:腫瘍マーカー。凝固系・線溶系各項目。自己抗体・補体。
・CRPの適応について:スクリーニングとして月1回は認める。炎症性疾患の場合は必要性により認めるが、実日数の1/3程度を上限とする。従来は“病名に関係なく“連月認められていたものが、炎症性疾患以外は連月測定は認められなくなりました。
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