第9号 -平成18年12月20日発行-
■発行人:土井邦紘 ■編集人:和田成雄 ■題字:福井 厳 顧問
第9回 京都糖尿病医会 学術講演会
平成18年6月24日 京都府医師会館
- 糖尿病と腎疾患 -
今回はミニレクチャー、話題提供、症例提示、特別講演と盛り沢山であった。
ミニレクチュアーは「早期糖尿病性腎症のマーカー」京都市立病院腎臓内科 八城正知先生で現在一般的には尿中微量アルブミンが用いられているが、糸球体毛細血管基底膜の構成成分であるラミニン、デキストラン硫酸プロテオグリカン、Ⅳ型コラーゲンなどもマーカーと考えられるが、まだデーターに乏しく、結局微量アルブミンが最良のマーカーと考えざるを得ない。ところで、尿中アルブミンの起源に関して、従来は糸球体基底膜のsize barrier, charge barrier としての機能障害により分子サイズが小さく陰性に帯電したアルブミンが漏れ出ると考えられていたが、最近、動物実験にて糖尿病状態では近位尿細管からアルブミン再吸収が障害されていることが証明され、尿中微量アルブミン排泄は必ずしも糸球体障害を反映しない可能性も示唆された。
話題提供は「糖尿病の保険診療」国保審査委員 和田成雄先生で糖尿病の日常診療における検査を中心にした注意点が話された。尿中アルブミン測定時の病名、β2-MGやケトン体などの測定回数、特にインスリン測定(IRI,CPR,尿中CPR)、GTTに関して詳しく述べられた(詳しく知りたい方は事務局までご連絡下さい)。
次に「腎障害を伴う糖尿病」症例が京都医療センター 山田和範先生、八幡兼成先生より提示された。糖尿病患者が呈する蛋白尿はすべて糖尿病性腎症とは限らず、罹病期間が短い、網膜症を合併しない、急速に尿蛋白が増加した、尿潜血を伴う、などの例では糖尿病性腎症以外の腎疾患を考慮して腎生検を施行し組織学的な検索が必要であることを多くの症例を提示し説明された。
最後に「日本人2型糖尿病患者における血管合併症とそのリスクファクター」と題してJDCS(Japan Diabetes Complication Study)のデータを元にお茶の水女子大学 曽根博仁先生が特別講演をされた。JDCSは日本人の2型糖尿病の合併症の発症要因を明らかにするために、全国59ヶ所の糖尿病専門施設の患者2205名(卑近年齢59歳、平均罹病期間11年)を対象とした大規模前向き研究である。講演要旨は次の通りです。
○肥満に関してはBMIは日本人患者は23.1で、イギリス人患者(UKPDS)は29.4、アメリカ人患者(NHANES)は32.9で、日本人患者の肥満度は明らかに低かった。
○肥満患者が必ずしも過食しているとは限らず、BMIと摂食量や血糖コントロールは関連がなかった。BMIの低い患者は罹病期間が長く、インスリン分泌量が低値でインスリン治療をしちえる割合が多かった。
○顕性腎症への1000人年あたりの進展率は8.0/1000人・年で、HbA1c9%以上では7%以下に比して4倍の危険率であった。また進展のリスクファクターは罹病期間、年齢、HbA1c、血圧、喫煙などの順であった。
○糖尿病患者における冠動脈疾患(IHD)と脳卒中(CVD)の発症率は、非糖尿病患者に比べておよそ5倍高く、IHD:8.9/1000人・年、CVD:7.8/1000人・年で久山町研究との比較ではIHDが増加しており、UKPDSとの比較ではCVDの発症頻度は同等であったがIHDの発症頻度は1/2に迫っている。また、そのリスクファクターはLDL-C、TG、HbA1cの順である(UKPDSでは1番はLDL-Cであるが2番は低HDL-Cである)。
○メタボリックシンドローム(MS)に関して、JDCS患者のうちWHO診断基準にあてはまるものは男女共50%、NCEP診断基準にあてはまるものは男45%、女38%であった。しかし日本の診断基準では約20%しかあてはまらず、これは日本版では内臓肥満をMSの必須項目としているが、糖尿病患者が必ずしも肥満でないためと考えられる。JDCS患者のIHDとCVDの発症率をMS群と非MS群で比較すると両者には差がなく、日本の診断基準ではこれらの心血管疾患を予知することは出来なかった。
○日本のMS診断基準は糖尿病患者の心血管疾患を予知するには不十分で、改善の余地があることが示された。
今回の講演会は午後6時までを予定していたが、それぞれの講演に対して熱心な討論があり、大幅に遅れて終了しました。
(文責 和田成雄)
第9回 地域糖尿病学習会の報告
平成18年7月29日(土) 午後、京都医療センター会議室にて、伏見医師会、伏見糖尿病研究会との共催で開催した。今回は、伏見糖尿病研究会のアンケート調査で関心の高かった「外来でのインスリン導入について」をテーマとして取り上げた。
最初に大石より「インスリン治療の対象者について」概説した。糖尿病患者のインスリン分泌能とインスリン抵抗性を評価し、治療法の選択をすること、血糖の日内変動のパターンによってインスリン製剤の選択をすることなどを解説した。
続いて、京都医療センター糖尿病センターの中川内玲子先生より「インスリン導入の障害とその対処」について、ご講演いただいた。インスリン治療患者のアンケート調査から、患者がインスリン治療をどのように捉えているのかを報告され、導入して80%の患者は血糖管理がよくなり、初めて良かったと思っているが、57%は同時に負担が増えたとも感じていることが紹介された。また実際の症例を通して、具体的なインスリン導入法やインスリン分泌と注射回数の関係が提示された。
最後に、伏見医師会の松下宣雄先生より、松下医院での実際のインスリン外来導入3症例の提示があった。松下先生はインスリン導入時の指導をどのように行っているかを解説され、導入には時間がかかるものの指導自体は難しくないことを話された。一方、経口血糖降下薬でコントロール困難な症例は肥満例が多いが、こうした症例ではインスリン導入してもコントロール改善につながらない例が多く、むしろ体重管理が効果があると話され、示唆に富んだご経験を聞かせていただいた。
参加者は36名で、講演後の討論も活発であった。参加者の約3割はインスリン治療の経験があった。具体的なインスリン導入の方法、経口薬とインスリン併用の調整方法、インスリン製剤の特徴、シックデイの対応、低血糖・高血糖の変動について、糖毒性とは、インスリン導入後の網膜症悪化についてなど、インスリン治療に関連した多くの質疑応答があり、インスリン治療への関心の高さが伺えた。
地区外から13名の参加者があり、日常診療に役立つ学習会や情報提供のニーズが大いことを感じた学習会であった。
役員会および理事会
第47回 京都糖尿病医会役員会
平成18年7月27日
報告事項
①第10回京都糖尿病医会学術講演会
②第9回地域糖尿病学習会:平成18年7月29日(土)午後2時より 場所:京都医療センター「外来でのインスリン導入」
③各種委員会報告:医療安全委員会 平成19年2月に市民向け講演会/内容は現在検討中。
④審査会情報:ビタミンの使用に関して
⑤糖尿病対策推進事業委員会:糖尿病患者の紹介施設として糖尿病専門医以外で糖尿病患者をよく診ている医師をリストアップしている
⑥尿酸に関する研究会(日本ケミファ):平成18年8月19日(土)大阪府立病院 中島先生/症例検討 桝田 出先生
⑦その他:オプチペンの故障時にクレーム用を設置している
協議事項
①第11回京都糖尿病医会学術講演会:平成19年6月23日 於:京都府医師会館「脳機能障害」/京都第2赤十字病院 山本康正先生/京都医療センター 塚原先生
②第10回糖尿病地域学習会:平成19年 冬(宇治地区)第二岡本病院 紀田康雄先生
③第11回糖尿病地域学習会:平成19年 夏 桂病院 山本泰三先生/西京、乙訓、亀岡地区を対象に
④入会促進:地区医師会で入会申込書を配布する/会を催したときに入会申込書を配布する
⑤研究会の案内を会員および非会員に伝達する方法:メールネットワークや医報を利用する
⑥府民の啓発:平成19年にはスタートしたい
⑦その他:新医師会館では専門医会に分担金/日糖協の登録医について
第48回 京都糖尿病医会役員会
平成18年9月28日
報告事項
①糖尿病対策推進事業委員会:糖尿病合併症の講習会準備中
②京都糖尿病エキスパートミーティング:平成18年10月28日(土)日航プリンセスホテル 山田祐一郎先生(司会 畑 雅之先生)
③DM21の会:平成18年10月21日(土)-京都タワーホテル 鳥取県立中央病院 武田(あきら)先生(司会 小出操子先生)
④京都医療推進協議会:平成19年10月14日(土)-みやこメッセ 山本泰三先生/鍵本伸二先生/大石まり子先生/和田成雄先生
協議事項
①その他:今回の保険改定(領収書発行、老人3割負担など)について。
第49回 京都糖尿病医会役員会
平成18年10月26日
報告事項
①各種委員会報告:生涯教育:平成19年度京都医学会に関して
②審査会情報:尿中アルブミン測定は糖尿病または早期糖尿病性腎症患者に対して施行/インスリン処方時にレセプトへの1日投与量の記載は不要/ビタミン剤投与/インスリン測定回数
③糖尿病対策推進事業委員会:現在医師を対象に総論・治療・合併症の解説/3回シリーズで行なっており、その後にコメディカル、一般府民を対象とした講習会を予定している
④k-netカンファレンス:平成18年11月9日(木)京都市立病院 八城 正知先生「糖尿病性腎症―圧利尿曲線から眺めると―」
⑤その他:京都インスリン治療研究会(平成18年11月25日京都国際ホテル
検討事項
①第12回京都糖尿病医会学術講演会:平成12年12月1日(土)「EBMの見方―糖尿病と高脂血症・高血圧症―」ディベートは?
②日本糖尿病財団からの依頼:軽症糖尿病(食後高血糖)に対する介入試験/理事会の時に詳細を説明
③大阪大学 山崎義光先生からの依頼:遺伝子解析により合併症の起こりやすさを推測する。学術講演会の後で説明。
④会計より:市民公開講座を行なう事務局費を計上する演者に対して準備費を支給
第50回 京都糖尿病医会役員会
平成18年11月16日
報告事項
①第10回地域糖尿病学習会:平成19年2月3月22日(木)宇治あんしん館 食事指導:管理栄養士
②第11回糖尿病地域学習会:平成19年 夏 桂病院:山本泰三先生/病診連携パス:日程など調整中
③各種委員会報告:生涯教育:京都医学会「癌」/医療安全対策委員会:平成19年2月24日患者と医者のコミュニケーション/平成19年3月10日:医療安全講演会
④審査会情報:不適切な傷病名に関して
⑤糖尿病対策推進事業委員会:平成18年11月22日:全国糖尿病対策推進協議会(土井会長が京都の状況を報告
⑥大塚製薬:抗血小板剤に関する講演会:「脳血管障害」女子医大 内山真一郎教授/「網膜症と抗血症板剤」高木 均先生
協議事項
①第12回京都糖尿病医会学術講演会:平成12年12月1日(土)テーマ:EBMのみかた。第1回としては「高血圧」?
②入会促進(会員のメリットは?):糖尿病専門医の集団ではなく、生活習慣病を前面に出す。講演会などに保険情報を盛り込む。
③府民講座:医師会事業との連携/各地区での行事とジョイントする
保険診療Q&A
○インスリンのみを処方した場合は、処方箋料は算定できません。
○注入器加算(300点)は注入器を処方した時のみしか算定できません。いまだに毎月算定している医療機関があります。ご注意ください。
○HbA1cを検査して糖尿病関連病名が記載されていない時は、査定の対象となります。
○外来通院中の糖尿病患者のインスリン測定は少なくとも3ヶ月以上に1回しか認められません。連月の算定は不可です。また、「単なる糖尿病疑い」ではインスリン測定は認められておりません。これもご注意ください。
○インスリン注射中の患者に対するIRI測定は不可です。CPRを測定してください。
○「尿中アルブミン精密」は糖尿病、糖尿病性早期腎症、糖尿病性腎症Ⅱ期の病名でOKです。
○内因性クレアチニン・クリアランス(150点)は保険から削除されました。
○甲状腺ホルモン検査に関して:甲状腺ホルモン合成阻害剤を投与した場合、すでに合成された残存ホルモンのため効果発現には2週間程度必要と言われていますので、「甲状腺ホルモン測定は月2回まで」、安定期には「多くても1ヶ月に1回」のみしか認められません。さらに詳しい審査基準がありますが非常に複雑で簡単には申し上げられません。ご不審の点は事務局までメールでお尋ね下さい。
○腫瘍マーカーを検査して悪性腫瘍病名がなければ(○○腫瘍は不可)査定の対象となります。
○「膠原病疑い」はICD-10に記載されており傷病名として認められるようですが、多用されますと返戻・注意の対象となりかねませんのでご注意ください。
○ビタミン投与に関して:基本的にビタミン投与に関しては、まずビタミン投与が必要か否か(適応があるか?)の判断が重要です。必要である場合(どの薬剤もそうですが)経口投与が原則です。内服が不可能な場合、あるいは内服では効果が期待できない場合のみ注射が認められます。もう一度よく見直してみてください。
○院外処方をされたレセプトの病名漏れが多数あります。レセプト点検のとき院外処方ではレセプトに薬剤名が記載されませんので注意してください。とくに他科の処方を一緒にされた時は病名確認を忘れずに行なってください。
○レセプトを見る限り必要性が明らかでない注射を頻回・多数例に施行されている場合があります。患者の求めに応じて施行するのではなく、医学的根拠に基づいてご判断下さい。
○古い病名がいつまでも残っているレセプトがあります。必ず転帰を記してください。
○急性上気道炎に対する抗生物質の注射は一般的には認められません。(抗生物質の内服も画一的に投与するのではなく必要性を十分に考慮してください。)